天童荒太『永遠の仔』幻冬社,1999年
こことは違う別の世界・・・
それは,子どもの頃,押し入れの中に,好きなぬいぐるみと,好きな本と,新しいまま取っておいたノートだけ抱えて入り,そっとノートをダンボールでつくった机の上に広げて,物語を作っていた自分がいつも求めていたところ。
公園の高い木の上に登り,一人で風に吹かれながら,空と雲を手に入れた気持ちになって,感じていたところ。
教室でノートの端に,好きな歌手の詩を書き続けながら,夢見ていたところ。
子どもの頃,私の中には確かに,「こことは違う別の世界」があった。
20代はじめに,その「別の世界」に蓋を閉じて,この世界で「生きる」ということを正面から見つめ,自分を肯定したきっかけは,私にとって「フェミニズム」というひとつの運動の存在だったけれど,
それやそれに関わる人たちと出会わなければ,今も別の世界に自分を泳がせることでしか,自分を感じることができなかったかもしれない。私が20代はじめに聞いた,「あなたは悪くない」という言葉,その言葉は今も私を支え続けている。
この本のテーマは,「傷」と「癒し」そして,「生きる」ということだ。
400字詰原稿用紙2385枚にも及ぶ長編だけれど,この本の中の描写に何一つ無駄なものはない。
この本では,ここに登場する,優希,笙一郎,梁平という「仔」たち,それぞれの傷の深さ,その傷の癒しの過程が描かれている。そして,3人のうち1人は死に,2人は生きる。
この本を読んで強く感じたのは,受けた傷をなかったことにすることは,決してできないということ,癒しは傷を消し去ることではなく,傷を抱えながら生きていくことを包み込むこと,認めること,肯定することなのだということだ。
本を読みながら,何度か泣けてきた。とりわけラストは,両眼にあてたトイレットペーパーが離せなかった。