第43夜 orgasm(オルガスム)

  セックスの「絶頂」の言い方は、独語のオルガスムス(Orgasmus)のほうが馴染み深いけれど、英語ではオーガズム(orgasm)と発音するのでご注意。
  例によってこの単語を分解してみると、orga「器官」+ smus「痙攣」になる。つまりオルガスムスっていうのは、生殖器が痙攣することなのだ。たしかに、絶頂のときって男も女も痙攣するじゃん。同様に vaginisumus なら「膣痙攣」のこと。こちらも、vagini「膣」+ sumus「痙攣」にバラすことができるじゃん。

  性反応に関しては、米国のマスターズ博士の研究が有名だ。
  セックスでの体の変化は、@興奮期A平坦期Bオルガスムス期C消退期の4段階に分けることができるんだってさ。オルガスムス期のときのことに焦点をしぼって観察してみると、恍惚状態になった女性はセックス・フラッシュといって、性の喜びのためか、体のあちこちがほんのり桜色に染まるよね。
  同時に子宮、膣口などの spasm「痙攣(けいれん)」「収縮」が始まる。例えば膣口の場合なら0・8秒間隔で4〜8回収縮する。ついでに、男はというと、これも射精のときにペニスがドッキン、ドッキンと、0・8秒間隔で脈打つのである。
  もっとも、十人十色で、なかには…、
  Some women never experience an orgasm in their lives.(一生オルガスムスを経験したことがないの)
という女性だっておるけども。

  オトコの痙攣回数を巷(ちまた)では『ナナドッキンハン』なんて言う。8回目はドッキンというわけにはいかず、力つきて最後は「ドッ」ぐらいで終わってしまうからだ。なかなか鋭い観察をするヤツもいるもんだが、今度、チャンスがあったら、よ〜く数えてみるといい。
  でありますから、お互いの呼吸がキッチリとあわないと、タイミングがずれて、ペニスは膣圧に負けてしまうんよ。アッという間に外に押し出されてしまうのが、いわゆる「性隔」の不一致ってヤツですな。

  一方、漢字の世界では、天にも昇るような orgasm の境地を「死地」「妙境」「佳境」「法悦」「随喜」などと表現してきた。さらに、昭和43年(1968)に中国籍の女優の応蘭芳が、
  「私ってセックスすると失神しちゃうの」
と新境地を開拓? 世間をビックリ仰天させている。
  この衝撃発言で『失神』は、俄然クローズアップされ、官能小説を得意としていた作家の川上宗薫も、小説のなかでしばしば失神状態を描写している。でもって、川上センセイは失神作家と呼ばれたんだけれど…、医学的にみるとセックス中に失神することはありえないそうだ。

  オルガスムスによく似た綴りに、organ「オルガン」「器官」「機関」という単語がある。スラングなら「女性器」のことで、organ-grinder(手風琴)も締まりのよい「膣」を指している。
  Tom seems to lack interest in women,probably because his small organ make him feel inadequate.(トムがオンナに興味を示さないのは、おそらく彼の性器が小さくて自信をなくしているからなんだ)

  オルガンがでたついでに、ピアノにもふれておこう。
  英語だと piano は、18世紀後半になって出現した鍵盤楽器「ピアノ」のことを指すが、イタリア語では「ゆっくり」をはじめ「平坦な」「静かに」など広〜い意味をもっている。
  中学の音楽の授業でも、piano 「弱く」、pianissimo「さらに弱く」などの用語を習ったはずだけど、覚えてますか?
  反対に、forte「強く」、fortissimo「さらに強く」…。forte の語根 for の関連単語には forte「長所」、force「力」、fort「砦」、fortress「(恒久的)要塞」などがあり、さらに、接頭語を従えると、comfort「慰める」、effort「努力する」、enforce「実施する」、reinforce「補強する」などの単語ができあがる。
  ちなみに淫語の世界では、fiddle-bow(バイオリンの弓)、flute(フルート)、piccolo(ピッコロ)もそろって「ペニス」のこと。

  それはそうとして、イタリアのマドンナたちはオリガスムスに到達するまでに、やたら音楽的な注文がうるさいそうだ。
  「そうよ、そ〜ッ、ピアニッシモでお願い」「もっと、強く、フォ、フォルテッシ、も〜ッ」と黄泉(よみ)の国を彷徨いながらも、腰の動きは、無・微・軽・弱・中・強・烈・激…と火の山の地震活動のごとく激しくなる。それにつれてラブジュースの量も、微・小・並・大・豪…雨量のごとし。
  男のほうだって黙っちゃいないゾ。「ゆこう、ゆこう、火の山へ」とノボリ調子のバリトンをふるわせる。でもね、それもつかの間…、
  「オオ、ソレ、ミオ(oh sole mio)」 「オオッ、ソレミロ、いっちまったァ」
ってんで、拍子抜けするような鬨かちどき。イチモツはとみれば、ちょっと前の火の山状態も、たちまちにしてフニクリ、フニックラ〜なのだ。

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