第50夜 masturbation(せんずり)

  韓国の放浪詩人、金笠(キム・サッカ)の詩に『乾燥死』(コンチョサ)という、なかなかスケベェな傑作がある。
   東望西望五兄弟忙忙(トンマンソマンオヒョンジェマンマン)
   嗚呼忠臣孝子乾燥死(アッチャチュンシンホエザコンチョサ)
  五兄弟(オヒョンジェ)っていうのは指5本のことなんです。といってもわかんねェだろうな。なんとこのポエム、5本の指をシコシコ使って、マスターベーション(masturbation)にふけっている描写なのだ。
   《きょろきょろと見回すあいだも、指のほうは忙しいこと忙しいこと
   あっというまに精子(将来の忠臣、孝子)は雑草の中で干からびちゃったわいな》

  今夜のテーマは masturbation「マスターベーション」のこと。ほかにも「オナニー」「手淫」「自慰」「せんずり」「手まんこ」「マス」…。江戸時代には「着せ剥ぎ」「塩つかみ」なんて言い方もあった。
  この単語を分解すると、manus「手」+ stuprum「淫蕩」となる。ホラ、master「主人」と呼ばれる人種って、ああしろこうしろと指図するじゃん。massage「マッサージ」だって、たいがい手を使って体を揉みほぐす。

  ついでに、mani にも「手」の意味がある。manicure は、mani+ cure「治療」となり「手のお手入れ」、maintain「維持する」にしても、main「手」+ tain「保」ってことなのだ。
  manner も「手」と関係が深い。一挙手一投足で上品にも下品にもみえてしまうじゃん。気配りよりむしろ手配りがマナーの基本。まッ、気取ってばかりいると、mannerism「マンネリズム」なんて言われかねないけど。
  manager「手代」「マネージャー」、manicure「マミユア」、manipulation「手捌き」「不正操作」、manuscript「(手書き)原稿」、manual「手引書」…。

  Onanie「オナニー」はドイツ語で、英語だと onanism になる。
  旧約聖書『創世記』のユダ(Judah)の息子オナン(Onan)のセックスライフに由来しており、その第38章には、以下のように記されている。
  「ユダは長子エルのために、妻を迎えた。しかし、エルは主の前に悪い者であったので、主は彼を殺された。そこでユダはオナンに言った。兄の妻の所にはいって彼女をめとり、兄に子供を得させなさい。しかし、オナンはその子が自分のものにならないのを知っていたので、兄の妻の所にはいった時、兄に子を得させないために地に洩(も)らした」
  よ〜く読めば、オナンの行為は手淫をしていないことが分かるだろう。ところが後世になって、どこのだれかは知らんけど、オナニーにふけっていたようにすり替えてしまったのだ。

  「手淫」のスラングはうんざりするほどあるが、その中から『オトコ用』の傑作をいくつか拾い出してみると--。butter one's corn(トウモロコシにバターを塗る)、five against one(1対5)、pollution(汚染)、shoot the tadpolet(おたまじゃくしを発射する)、solitary sin(孤独の罪悪)…。
  一方、『オンナ用』は、beat the beaver(ビーバーを叩く)、grease the gash(裂け目にグリースを塗る)、one-finger exercise(指一本運動)、pet the poodle(プードルを可愛がる)、tickle one'sown crak(割れ目をくすぐる)ってなフレーズがある。

  コチラ日本では、その昔、女学生の間で「須磨浦」なる隠語がはやったそうだけど、なんのことはない、ウラをかえせば「マス」って、やや単純だな。
  唐突だけれど、50夜にちなんで「明日の百より今日の五十」という諺のこと。
  このニュアンスにピタリ一致するアチラの諺は、
  A bird in the hand is worth two in the bush.(手に入れた1羽は茂みの中の2羽に値する)
 これ、「人間欲をかいちゃいけないよ」という戒めだが、この諺をパクったパロディーがやたらと面白い。ためになる。
  One in the bush is worth two in the hand.(1回のセックスは2回の自慰と同じ価値がある)
  なるほど、その通りかもしれない。もっとも、最近のは「1回の自慰は、2回のセックスと同じ価値がある」と主張すオナニストもいる。なんたって、自慰ならば人を傷つけたり、自分が傷ついたりしないもんな。

   ♪奈良の大仏せんずりこげば
    奈良の都はノリの海
    ランララララララ ランラララララ
ってな替え歌があるけれど、これはちょっとノリすぎ。
  奈良の都がノリの海になるなんてとんでもない。平均的な日本男児は1回の射精で1ccから3ccの精液を放出すといわれている。一方、奈良の大仏(座像)は高さ約15bで、人間の18〜20倍ぐらいある。だとすりゃ大仏が1回に放出する精子の量は、多くて牛乳ビン1本分だもの。いや、なにもこんなことでミネラル魚田、ムキになることないか。

目次へ
表紙へ