第56六夜 testicles(睾丸)

  ドイツの Hoden「睾丸」との付き合いはやたらと長〜い。大切なものをしまっておく『宝殿』と響きが似ているため、親しみがもてたのか。
  英語だと testes,testicles となる。
  古代ローマ時代には裁判所で宣誓するとき、自分の睾丸のうえに手をあてがう習慣があった。そのことから、testify「証言する」という言葉もできたほど、睾丸というのはチョ〜重要な存在だった。古代ユダヤ人の間でも、重大な契約の場合はお互いに手を伸ばして、相手の睾丸をギュッと握りあったそうな。
  いいですか…、男にとて真に価値があるのは、サオなんかじゃない。タマタマの方ですぞ。その証拠に、≪魂≫や≪霊≫はいずれも『タマ』と読めるじゃありませんか。男の『急所』とも言うじゃん。

  アチラでは、きん玉を直訳したゴールデン・ボール(golden ball)ってスラングも使われる。しかし、それより、diamonds「ダイヤモンド」のほうがずっと通じやすい。きっと、宝石の伝統がある社会だからなのだろう。
  oyster(カキ)も淫語で「睾丸」のこと。これまた使用頻度が高く、レストランのメニューに、mountain oyster「山のカキ」とあれば注意しなきゃいけないよ。牛の睾丸がドデッと山盛りになって出てくるぞ。もっとも、oyster はハマグリ、赤貝、イソギンチャクなどと同様に、女性の性器のことでもある。
  It is said that eating oysters make you want an oyster.(カキを食べると女がほしくなるんだな、これが…)

  睾丸をよ〜く観察してみると陰嚢いんのうに収まっているタマタマは、たいがい正常な状態だと、五対六ぐらいの比率で右のタマよりも左のタマのほうが下がっていることに気がつくはずだ。これは右より左のタマが重いってことではない。
   きん玉が上へぶらりと角兵衛獅子
  胎児の睾丸は約8カ月目で、お腹から陰嚢(scrotum)へ向かって下がりはじめる。このとき決まって左のタマから先に下がり、その後で右のタマが下がる。つまり、先におさまった左のほうが、少しばかり下がってしまうんだとさ。
  精子を製造するには、体温よりも少し温度が低い環境がいい。だから、体から離れてぶらさがり、しかも、互いに並んでいるより上下になっていたほうが低温が保てるってわけ。うまくできているもんだ。

  No interrest in me? Are you castrated or something?(わたしに興味ないの? 去勢でもされたの?)
  castrate「去勢」はタマタマを抜き取ることだ。スラングだと deball(玉をとる)、dehorn(角を切り取る)、denut(実を取る)、fixed(固定した)などの言い方もある。neuter だとペットの犬や猫の「去勢手術」、eunuch となれば中国の後宮に仕えていた去勢された男たち「宦官」こと。
  宦官の去勢手術は、コショウ湯で男根を消毒することから始まる。つぎに鎌のような鋭利な刃物で、タマもサオも一瞬のうちにスパッと切り落としてしまう。尿道は糸で縫うか、栓でふさいでおしまい。
  時がたつにつれて男の体は丸みをおびて、肌もツヤツヤしてくる。17世紀の明朝時代には、なんとこんな宦官たちが10万人もいて、小股でちょこちょこと後宮を歩き回っていたという。

  医学用語で、vasectomy は「パイプカット」のことだが、これは輸精管をカットして精子が通り抜けられなくする手術。このためなんとなく女性化するんじゃないかと心配になる。しかし、これはあきらかに間違。男性ホルモンは睾丸でつくられているからだ。
  ちなみに、ovarian は「卵巣」のこと。ラテン語 ovum は「卵」なので、oval なら「卵型」「うりざね顔」になる。ついでに、fallopian tube「卵管」はイタリアの解剖学者ファロピアの名がつけられた。

  これは朝鮮動乱が勃発したときの話。
  米国主導だった国連は、すかさず北朝鮮を侵略者と決めつけ、加盟国に援助と出兵を強く要請した。ブラジルでも援助については簡単に決まったが、派兵については、国内世論の強い反対もあり、容易に決定しかねていた。
  板ばさみ状態の国連のブラジル代表部は本国に意向をあおいだ。ところが、打ち返されてきた電報には、『クリャン』とあるだけ。代表部では暗号帳をめくって解読につとめるが、さっぱり分からない。
  そのとき、一人の若い書記官がハタと膝をうって、「これは暗号ではございません。ずばり睾丸(クリャン)のことです。つまり、援助はすれど介入せずとの訓令だと…」。この小噺をキッチリ理解できますか。

  暗号といえば、第二次世界大戦での、わが日本帝国の暗号はことごとく米国側に解読されていたそうだ。で、山本五十六連合艦隊司令長官の居場所も敵戦闘機の知るところとなり、ソロモン諸島ブーゲンビル上空に散ってしまった。
  五十六は父親が56歳のときに生まれた子。父親の睾丸が活発に働いていた証拠でもあり、父親としては「どうだッ、56歳でこの通りッ」と、隣近所に吹聴したかったのかもしれない。

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