第60夜 restorative(回春剤)

  aphrodisiac は、いざッ! というときの頼みのツナ「精力剤」「媚薬」「回春剤」のことだ。ギリシャ神話の愛と美の女神、Aphrodite「アフロディーティ」(ローマ神話でビーナス)からつくられた単語。そうそう、アフロディーティは「愛と美の女神」というより、「性の女神」と言うほうが正しかろう。aphrodisia「精力過多」というスケベ単語もあるくらいだもの。
  で、さっそくに精力剤のことだが、大きくわけつと、男性ホルモン剤、中枢神経剤、強壮剤の3種類あるんだって。ユンケル皇帝液、赤マムシ、マムシグロン…、たちまち勃起するクリーム、その気にならせるパウダー、持続ピルなど、よくもまぁこんなにあるものだと感心してしまう。
  この精力剤のひとつ、restorative は、栄養を補い体力をつける「強壮剤」のこと。語幹の rest には「休息」の意味があり、restaurant「レストラン」もここからできた。レストランは食べ、かつ大いにくつろぐ場所なのである。tonic も「滋養強壮剤」のことで、tonic water「トニックウォーター」、hair tonic「発毛剤」などはお馴染み単語でしょ。

  ここらでちょっとクスリの関連単語について検討してみよう。
  medicine「薬」の語根、med には「型」「様」「式」などの意味があり、適切な処置(様式)のために使用するのが薬ってことだ。mode「尺度」、model「標準」、moderator「調停者」、modesty「謙遜」、module「モジュール」、接頭語同伴なら、accommodation「施設」、immoderation「過度」、remedy「治療」などの同系単語を見つけることができる。
  続いて薬の種類のこと。
  capsule「カプセル」、liquid medicine「水薬」、medicine「内服薬」、ointm-ent,plaster「軟膏」、pill「ピル」、powder「散薬」、tablet「錠剤」…。麻薬の俗語としても使われる drug はモルヒネなどの調剤されていないクスリを指している。
  ところで、強壮剤の横綱といえば、むかしはニンニクが、古今東西を問わず重宝がられていたようだ。
  『悪臭をはなつバラ』『魔女の毒薬』『貧者の毒消し』、これらはなんと2500年前にギリシャ人たちがニンニクにつけた愛称。古代ローマでは潰瘍、喘息、風邪など、約60種の病気に効くと信じられ、古代エジプトではピラミッド建設に従事した奴隷にも「ヤレ食え、ソレ食え」とニンニクを与えて続けたそうだ。
  諺の「毒を以て毒を制す」の英語版は、
  The smell of garlic takes away the smell of onions.(ニンニクの臭いは、タマネギの臭いを消す)
  吸血鬼(vampire)のヤツ、この臭さにからっきし弱かった。だもんで、一時ニンニクはドラキュラを追い払う役割を担って活躍し、さらに現在はゴキブリ退治にも利用されている。
  一方、漢方薬の世界の aphrodisiac は、シカの角、オットセイのペニス、睾丸などが代表格。なぜこうした動物が原料にされるかというと、1頭の雄が何十頭もの雌を従えており、その精力絶倫さにあやかろうってわけだ。
  江戸時代は両国の四ッ目屋の長命丸が有名だった。
  二十慄然、三十当然、四十悄然、五十呆然、六十全然---というくらいで、ペニスの勃起力は年々、衰退していくのは避けられない。その悄然、呆然、全然エイジを「なんとかしてさしあげましょう」というのが長命丸。客のなかには、還暦を過ぎてから六十の手習、回春剤の虜になってしまったご隠居さんもいたようだ。20性紀末にバイアグラに群がったように…。
   よがるはず是は九州ひごの国
  肥後のずいは、芋茎のことで、乾燥させたものをぬるま湯にひたし男のシンボルに巻き付けて使う。すると、女はむずかゆくなり、随喜の涙をながすってわけ。ずいきの正体は、ホモゲンチジンサンというエグミにある。ぬるま湯にひたすと、このホモゲンチジンサンが溶けだし、これが女性性器をムズムズと刺激するという仕掛け。
  傑作は惚れ薬のイモリの黒焼きだな。惚れた相手にパラパラと粉末をかけてやれば、たちどころに願いが叶う? 『和漢三才図絵』にも、「交合したものを捕らえ、雄と雌とを山を隔てて焼き、媚薬として用いる。壮夫争いてこれを求む」とイモリの黒焼きの効能書きが載っている。
  欧米ではいまでも、ツチハンミョウ科の甲虫(blister beetle,Spanish fry)を乾燥させ、その粉末を催淫剤として愛用しているようだ。これを cantharides「カンタリス」という。
  そういえば、日本でも精力がつくと、九龍虫という米粒ほどの甲虫を生きたまま呑み込むことがやたら流行ったっけ。一世風靡した九龍虫もいまは、まったくムシされ、最近はとんと見かけなくなっちゃったけど、まだ、どこかで生き延びているんだろうか。紅茶キノコともども、安否が気づかわれる。

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