第七十二夜 it(ナニ)

 ワレメちゃん、テトラ、シトシトピッチャン、マンP…。昨今、女性陰部を表すコトバはかなり緩和され、けっこうバラエティーに富んでいる。でもね、一昔前はそのモノずばりはタブーだった。日本語で『ナニ』、同様にアチラで[it]、いわゆる、ボカシをかけるっていうやつですか。
 ナニがナニしてナントやら〜、なら浪花節の世界だが、
 「なぁ、女の子のナニって、正確なところどんな形をしているんかな?」
 「そうよな。ピカソの絵みたいなものさ。口じゃ説明できないね」
 もっともなことで、まことに神様が造りたもうた偉大な抽象芸術のような気がしないでもない。その神秘な部分をどこまでも確かめてみようと思うのが、男の本能であり、性さがでもある。
 肉体派女優のクララ・ボウが主演した映画に『It』(1927年)があった。この it は「セクシーな女」のことで、以来、it girl は「セックス・アピールのある女性」を指すようになった。
 ビートルズの持歌『Do It 』という曲だって「ナニしようぜ」とモザイクをかけているけれど、≪ナニ≫のほうが、時と場合によっては、俄然インパクトを持つことだってある。
 Are you on for it?(やらせてくれる?)
 be on for it は、まんま訳せば「それに対して準備できてる」、つまり男と女の会話の流れでは「やらせてくれる?」となる。
 Is it in ?(入っているかい)の it は、たいがい「ペニス」を指している。どうしてかというと、こういうふうに聞けるのは、オトコに限られているからだ。オンナに、Is it in ?(あららッ、あんたのナニ、ちゃんと入っているの)といわれたのでは、男のタツ瀬がない。ちなみに、it の複数形の them だったら「睾丸」のこと。
 Are them in ?(アレもちゃんと入ってるの)。そりゃご無体、睾丸無知というもの。睾丸は肉棒に対し援助はするけど、介入はしないことになっている。
   "Is it in?" he asked.
   "Yes" she said.
   "Does it hurt?" he asked.
   "No" she said.
   So he sold her a new pair of shoes.
   「入ってますか」と男。
   「ええ」と女。
   「痛くありませんか」と男。
   「いいえ」と女。
   かくして男は女に靴1足を売った。
 get it on なら「セックスする」。その昔、マービン・ゲイが歌って人気になった『Let's get it on 』は「ナニしようぜ」という意味なのだ。get up は「起きる」「立つ」だが、あいだに it をはさんだ get it up なら、ナニのほうが強調されて「勃起する」というスケベ熟語に化けてしまう。
 ここいらで、先ほどからチラチラ顔を出している get をゲットしてみよう。
 便利なもんで、コイツを使えばたちどころに be,do,have,make,take などあらゆる動詞の言い換えができてしまう。だだし、get を使うとちょっと下品な感じになる。
 I drink a wine.(酒にします)/I want a wine.(酒ちょうだい)
 I get a wine.(酒くれや)/I have a wine.(酒いただきます)
 Wine please.(酒お願いします)
 なんとなく、get の持つ感じがゲットできるだろう。
 『I've got you under my skin 』(君をだきしめたい)は、フランク・シナトラの持ち歌のひとつ『君をだきしめたい』の題名なんだけれど、
 I get you.(お前とやりてぇんだ)
だと、あまりにも直接的な言い方になってしまうので、サンドイッチのようにあいだにハム、おっとハブをはさんでキツさを緩和しているのだ。ようするに、get を使うと下品で、且つ淫靡いんびな感じがにじみでてくる。覚えておこう。
 @ get down to business(仕事にとりかかる)
 A get in(入る)
 B get into someone's pants(相手のズボンの中に入る)
 C get one's ashes hauled(灰を捨てに行く)
 D get through(通り抜ける)
 いずれのイディオムも「ナニをする」という意味なのだ。
 Did you getting any with her?(彼女とアレしたかい)
 I couldn't even get first base.(キスさえできなかったよ)
 ともかく、四字語が主流を占めるスケベ単語界にあって、代名詞の it と、動詞の get は、ナニげなく、それとなく、存在しているようだが、どうして、由緒正しい、ケットうつきのスエベ単語でもある。

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