第七十五夜 canoe inspecter(産婦人科医)

 あれは1975年4月30日ことだった。北ベトナム人民軍が南ベトナムの首都サイゴンになだれこむ。大統領官邸に革命旗が掲がる。ついにベトナム戦争は終結を迎えるのである。あれから四半世紀。「人の噂も七十五日」なんて諺があるけれど、世界を揺るがしたベトナム戦争もいまや忘却の彼方へ。
 この「人の噂…」を和文英訳すると、
 A wonder lasts but nine days.
 (不思議なことも9日しか続かない)
と9日になってしまう。世の中の変化がやたらと激しい最近では、週刊誌の影響もあって、seven days wonder(7日間の不思議)だと主張するヤツさえいるようだが…。
 ところで、この人の噂ってやつがクセ者。諜報機関にとってはかなり貴重な情報源になるようだ。ベトナム戦争が終結する3年前の1972年、民主党本部に、walls have ears(壁に耳)がわりの超小型盗聴器を仕掛けようとした一味が御用となりいわゆるウォーターゲイト事件が発覚した。ね、ニクソンさん。
 もっとも、最近は paper sliding doors have eye(障子に目)がわりの超小型カメラが重宝がられ、こいつを女子トイレなどに仕掛けちゃう『盗撮』ってのがお盛んだ。
 さて、本題に入るとしよう。
 さきほどから、チラチラ姿を見え隠れさせている spay「スパイ」の語根 spe,spi には「見る」という意味がある。
 spectacle「見世物」、speculation「推測」「熟考」、speculater「投機家」、espionage も「スパイ行為」のことで、スペルのなかに spi がソッと身を隠しているだろう。
 おいおい、スケベはどこへいっちゃったんだよ!
 スパイの女王といわれたのが、第一次世界大戦で暗躍したマタハリ。国籍不明の女性で、夫と離婚してからパリのナイトクラブの踊り子となり、夜な夜な集まってくる男たちを悩殺、同時にフランスのスパイとして噂話などを収集していた。
 ところが、いつの日からかドイツ側にも情報を流すようになる。恋人で、敬愛する(respect)ロシア将校のためだったが、注意深い(circumspect)はずのマタハリは、やがてフランス側に疑われ(suspect)て、逮捕されてしまう。
 期待していた(expect)ロシア将校の供述は、そりゃ冷たいもんさ。とうとう、「マタハリと結婚する気なんか毛頭なかった」と軽蔑(despise)するしまつ。マタハリも見込み(prospect)違いで、ガックリとうなだれ、コトのいっさいを回顧(retrospect)してしまったといわれている。
 inspecter は、ずかずかと土足で上がりこみ家の中を(in-)のぞく人、つまり「警部」のことで、canoe inspecter になると「産婦人科医」、canoe inspectionなら「女性の性病検査」になる。カヌーの形が女性のアソコにそっくりで、その子細をのぞきこむのが仕事だからだ。
 "I have an excruciating itch in my croth." "You should see a canoe inspecter."
  (男:マタのところがやたらかゆいんだ。女:婦人科のお医者さんに みてもらうべきよ)
 ある横浜の産婦人科医は主婦、OL、女学生、芸者、踊り子など、1280人にもおよぶ女性の陰部ばかりのぞき、『男性器の長短は身長、体格に正比例しないが、女性のソレは正比例する』という主旨の論文で博士号をもらっている。
 この論文によると陰裂長(入口の長さ)は、体格によって違ってくるが、小柄な体格群に属する女性の平均は68・5_、大柄な女性の平均は75・5_だったそうな。お産をすると3_程度長くなるが、外陰幅(入口の幅)のほうは、何度分娩しても変化がないことも分かった。
 この産婦人科医イワク。
 「検査(inspect)していて、もっとも感動したのは芸者さんたち。皆さん手入れが行き届いていて、じつに奇麗いで、いい表情をしていましたなァ。眺めながらうっとりしました」
 生物学の分類用語、species「種」だって、ためつすがめつ眺め回し、同じものであるかどうか識別したもの、という意味がある。
 英国の生物学専門家(specialist)のダーウイン(1809-82)は『The Origin of Species』(種の起源)で、南米大陸や南太平洋の島々などで採集したサンプル(specimen)から、人間は猿から進化したと主張した。
 しかし、けれども、にもかかわらず…、世間の風は冷たいもんだ。「神を冒涜することもはなはだしい」と騒ぎだし、この本はたちまち米国などで発禁となってしまう。
 もっとも、「神の怒りも七十五日」ってね…、今じゃ、このダーウインの主張を咎とがめることは、神サマだってできっこない。
 「産後七十五日は亭主を寝間に入れるな」という教えだって、昨今、「産後十五日」にかわりつつある。…エへへへ、九九でごまかしちゃいけませんが、思えば臨月以来、ずうっと遠ざかっており、もう、さわればピピッとはじけるホウセンカ状態。ハヨウサセンカという気持ち、わからんでもない。

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