こわいこわいバスのお話
そんなこんなで地下鉄よりもバスを好むMethaですが、だからと言ってバスにはとんでもないことが起こらないわけでは決してないのです。ある意味ではバスは地下鉄よりもキケンな乗り物なのです!
ある日、いつものバス停に行ってみたら、そのすぐ前の道路が工事中でした。バス停には「このバス停は使用できません」という黄色いはり紙がしてあります。30mほど先に臨時バス停の標識が立っていて、そこに人々が並んでいました。しばらく待つと1台のバスがやってきましたが、それはMethaの乗りたい番号のバスではなかったので、Methaはそのままぼーっしていました。
Methaは乗り物に乗る時にはいつも、MDでガンガンに音楽を聞いています(…そうすればムカつくイギリス人をあまり気にしなくてもすむのではないかと思うからです)。その日もボリュームを一杯にして、ノリノリでウタダヒカルを聴いていました。
しかし。
ボリュームをそれほど上げていたにもかかわらず、Methaの耳は何やら異常な音を外界から捉えたのです。ぼーっと音楽を聴いていたMethaはその異変に気が付き、すぐにMDを止めて音をする方を見ました。
ごり、ごり、ごりりりりり…ごん!!
ばしゃーん!!!!
始めは何が起こったのか全くわかりませんでした。
ところがふと気がつくと、Methaの横にはなんと、うわあああぁぁっ!頭からだらだらと血を流した男性が呆然と立っているではありませんかっ!!!
そしてそのそばには、さっきまでそこに立っていたはずの臨時バス停の標識がころがっています。鉄パイプに重そうなコンクリートの土台がついただけの非常に原始的な標識です。
…そうなのです。バスが乗客を乗せて発車しようとした時、ドヘタクソな運転手は道に立ててあったその標識に車体をぶつけてしまったのです。それでも無理矢理そのまま行こうとして車体と標識がこすれ合った音が「ごり、ごり、ごりりりりり…」、標識が倒れてそばにいた男性の頭を直撃したのが「ごん!!」、そしてその後「ばしゃーん!!!」と標識は道路に投げ出されたのです。
血を流している男性は、お葬式へ行くところだったのか何なのか、ぴっちりとブラックスーツを着てキメていました。彼と一緒にいたもう一人の男性(これまた黒スーツ姿)は慌てて彼のネクタイを緩め、ワイシャツの上のボタンをはずして楽にしてやっています。血を流している当人は余りの痛さとショックに気が遠くなっているようで、頭を押さえてふらふらしながら何か言いたそうに口をぱくぱくしているものの、かすれ声すらも出ません。
真っ黒なスーツ…その男性の目のさめるような金髪…そしてそこから滴り落ちる真っ赤な血!!!!
周りでバスを待っていた人たちは、Methaも含め、朝も早くから目にした余りにもスプラッタな光景にどうしてよいか分からず、凍り付いていました。
しかし、しかしです!!その隙に、バスはそ知らぬ顔をして行ってしまったのです!!!
運転手が気付いていないわけがありません。標識が倒れた瞬間、発車しようとしていたバスはさすがに異変を感じて一旦は止まったのですからっ!
「あっっ、行っちまいやがったぞっっ!!」
我に返った誰かが叫びました。しかし既に時遅し。バスは猛スピード(?)で逃げ去ってしまいました。
被害者の男性は真っ青な顔をしてとうとう頭を抱えて道ばたにうずくまってしまいました。周りの人々(そしてMetha)はおろおろするばかりです。ど、どうしたらいいんだ!
すると次の瞬間、また違う誰かが叫びました。
「あっ!救急車だッ!!」
見ると、何と向こうの方から、サイレンを鳴らしていない、おそらく用を終えて回送中の病院の搬送車らしきものがこっちへ走ってくるではありませんかっ(そのバス停は実は有名な救急病院の近くでした)!
ここでようやく「何か役に立つことをやらねば」と正気に戻った周りの人々(そしてMetha)は我先にと道路に飛び出し、皆でその搬送車に向かってぶんぶんと手をふって合図をし、止まってもらったのでした。そして被害者の男性は連れの人に助けられながらその車に乗せてもらい、応急処置付きで病院へと走り去ったのでありました…。
いや、本当にあっと言う間の出来事でした。
その後Methaは何ごともなかったように自分のバスに乗り込みましたが、後で考えれば考える程、あのそしらぬふりをして走り去っていったバスに腹が立ちました。
ちくしょーちくしょー!!あの時誰かが大声で運転手に「てめぇ、何考えてんだ!降りてこいっ!」と言えばよかったのです。そうしたらいくら何でも、運転手はそ知らぬ顔などできなかったでしょう。ああ、どうして誰も何もできなかったのでしょう!!Methaは、あの被害者の男性が一日も早く回復し、あのにっくきロンドンバスの運転手を探し出して訴えてやることを望むのでした!!
ロンドンのバスにまつわる「コワイ話し」は結構あります。
乗降口がオープンデッキになっているバスから降りようとして、まだ降り切っていないのに発車されてしまい、ついでにどこかに鞄の持ち手をひっかけてしまったために数メートルひきずられて大怪我をしたおばあさんの話し。
ラウンド・アバウト(ロータリーみたいなところ)で内側を走っていた自転車をひっかけたバスが、止まるどころか更にスピードアップして自転車を引きずり離そうとしたという話し。
Metha自身も、オープンデッキでない前乗りのドアつきバスで、デカイおじさんに続いて乗ろうとして片足を乗せたところで、小さいMethaが見えていなかった運転手のおっさんにドアを閉められ、ぐっちゃりと潰されてしまったことがあります。その時も運転手は慌ててドアを開けなおしたものの、いかにも何事もなかったかのような涼しい顔を装いながら、決してMethaと目を合わせようとしませんでした。「すみません、大丈夫でしたか?」などと自分から言おうものなら、面倒くさいことになってしまう、自分の負けだ、と思っているからです!!!
バスという「市民に最も愛されるべき身近な乗り物」を運転するという重要な任務を負っているという自覚は、一体全体ヤツらにはないのでしょうかっ???…ないんでしょうね…やはり…。
きぃぃ〜!!こんなバス、いくら命があっても足りないぞ!!
今度の事件で改めて思い知ったMethaは、公共交通機関を使わずにロンドンを安全に自由に移動できる日を夢見て、日夜ハイドパークでインライン・スケートの練習に励むのでした。