1.請求書
ある日、MethaはテレビでBBCの番組を見ていました。番組は、「ロンドン電力のずさんな実態」というタイトルでした(・・・ちょっと違うかな、でもそんな感じだったと思います)。「ロンドン電力(London Electricity)」というのは、ロンドン市一帯に電力を供給する電力会社です。
そのBBCの番組では、「ロンドン電力」から不当で法外な料金請求を受けたロンドン市内のフィッシュ&チップス屋を経営する夫婦の話を扱っていました。夫婦はこれまで15年間フィッシュ&チップス屋を経営しており、毎月およそ6万円の電気料金を払っていたそうです。ところがある日突然、「ロンドン電力」から次のような請求書が来てびっくり仰天したと言うのです。
「ロンドン電力は5年前に料金の計算方法を改訂しましたが、何かの手違いであなたの電力料金は古い計算方法でずっと計算されていました。したがって新料金計算法に基づき、過去5年分の差額200万円を至急お払い下さい。なお新料金計算法に基づいた今後のあなたの電気料金は、月々10万円となります・・・」
当然フィッシュ&チップス屋の夫婦は怒り爆発、裁判に持ち込みました。結果は知りませんが、それを見たMethaは「いやぁねぇ、ロンドン電力って・・・。ほんと、イイカゲンな経営なんだから。自分の手違いのツケを客に押しつけるなっちゅーの!しかも5年前だって?なにが手違いよ!Methaも気をつけなきゃねぇぇ〜」などと、ソファーに寝そべっておせんべいをかじりながら呑気に思っていたものです。
そして程なくして、コトは起こったのでありました。
ある日Methaが帰宅すると、ポストにロンドン電力からの請求書が来ていました。Methaは、あれ?と思いました。
Methaはお金の管理ははっきり言ってずさんな方です。子供の頃こそ「おこづかい帳」をつけていましたが、長じてからは家計簿なんぞ3日以上続いたことはありません。クレジットカードの支払い明細だって確かめません。銀行口座の通帳だってあまりよく見たことがありません(・・・イギリスの銀行ではこれは危険なことです。分かってはいるのですが・・・)。実はお給料だって本当は幾ら貰っているのかよく知りません。
しかしこの電気料金に関しては、確かその一ヶ月前に自動引き落としの申請をしたはずであることを覚えていたのです。
「おかしいな?自動引き落としにしたはずなのに、請求書が来てるぞ・・・」
嫌な予感がしたMethaは、早速過去の電力料金請求書や自動引き落としの申請書類をひっぱりだしてみました(管理はずさんですが、一応書類はちゃんととってあるのです)。
確かに自動引き落としを申し込んでいますし、今月分の電気料金はすでに口座から引き落とされています。
「それじゃあ、この請求書は一体何だ?」
Methaはもう一度、請求書を注意深く観察しました。
「あっ!!」
請求書のあて先の住所が、なんとMethaの住所ではないのです。にもかかわらず、あて先の名前はMethaの名前になっています。住所は、ほんの少しの違いなのですが、同じ通りの番地違いでした。しかしそこにMethaの名前が記載されているので、誰かがMethaのポストに入れたのでしょう。
更に観察して見ると、それぞれの顧客に割り当てられる「お客さま番号」はMethaが既に自動引き落とししている番号と全然違うものでした。
・・・ということは、Methaは自分の名前で二口もロンドン電力と契約していることになっているのです。しかもそのうちの一つは、Methaが全然住んだことも足を踏み入れたこともないような住所のものです。
なんでMethaがそんなところの電気料金を請求されなければいけないのでしょうかっ?
そもそもどうしてこういうことが起こるのでしょうか?どうしてMethaの名前が使用されてしまったのでしょうか?何故、突然今月分からMethaの名前が登場したのでしょうか?
確かに、住所はとっても似ています。番地が違うだけで、通りの名前とフラットの番号は一緒です。しかしこれは全然違う建物なのですよっ!あまりにも初歩的なミスではありませんか??
もしあそこで「おかしいな」と思わなければ、お金にずぼらなMethaのこと、当然何の疑問も無く郵便局に行って支払いをしてしまっていたことでしょう!!ああ、よかった、気がついてッ!!
Methaはぶりぶりしながら、早速ロンドン電力に「抗議文」を書き始めました。
というのも、以前、イギリスに長く住む日本人の知り合いからこのようなことを聞いていたからです。
「イギリスではね、何か問題が持ちあがったら、必ず文書で抗議するのがいいのよ。電話とか口頭で抗議したら証拠が残らなくて、そのまま無視されたり言い逃れされたりしますからね。ゼッタイに文書で送りつけて、手元にコピーを残しておくのよっ!そうすれば後で何か問題が起こった時、証拠になりますからねっ!」
というわけでMethaはあらん限りの知識を総動員し、できるだけ慇懃無礼な文章を書いてみました。
慇懃無礼なイギリス人には慇懃無礼な文章で攻撃するのが一番なのです!!