アーブ(ノルウェー)、ヒロ(日本)、マイク(マラウィ)、ベキ(南アフリカ)、チェン(中国)

 

ぞろぞろと5人の名前がならびました。この5人は、昔Methaがとてもビンボーだったころ一つの家を借りて一緒に住んでいた人達です。外国では、全くの他人とフラット・シェアをしたりして一緒に暮らすことは全然珍しいことではありません。キッチンや居間、風呂トイレは共同です。お風呂とは別にもう一つシャワーがありました。

Metha以外は全員男性で、今振りかえるとよくやったなあと思わないでもないですが、当時はそれが逆にMethaにとっては楽チンでした。誰も料理なんかしないからキッチンはいつでも使い放題、みんなお風呂が嫌いでシャワーしか使わないからどんなに長風呂しても平気。それにみんなある程度の年齢のいった人達ばかりだったので、皆お互いに節度を保って平和に暮らしていました。

 

さて、ある日、めずらしくフラットの全員が勢揃いする土曜日がありました。

Methaがお昼ご飯をつくりにキッチンに行くと、アーブが何やらキッチンの窓を大開放して換気しています。

「なにやってんの」

「ここの空気は悪いから換気してるんだ。Metha、提案があるんだけど」

「なに」

「今日これから冷凍庫の霜取りをしようと思うんだけどどうだろう」

我々の冷凍庫は(というかヨーロッパ製の冷凍庫は全部)すぐに霜がついてしまうのです。それもつき方がハンパではありません。冷凍庫は今や成長する霜に圧迫され、本来の容積の半分以下になってしまっています。

「いいんじゃない」

我々の冷凍庫は4段の引き出し式になっていたので、1段をだいたい二人で使っていました。Methaは他の人よりも食糧が多かったので、特別(?)に1段全部を一人で使っていましたが、アーブはチェンと分けて使っていました。見るとアーブは実は既にちゃっかり冷凍庫から自分の食糧品を取り出しています。冷蔵庫のスイッチももう切ってありました。

「冷蔵庫の霜取りは僕だけの段をやっても意味が無いので、みんなでやろう。あと冷蔵庫の中に腐ったものとか古い瓶詰めとかがあるから、衛生上良くない。ついでに掃除しよう」

「いいけど」

「Metha、みんなを呼んできてくれたまえ」

 

…なんでわたしが、と思いつつも、Methaは皆の部屋のドアをたたいてまわりました。

「みなさーん、アーブ大センセイがお呼びですよ〜」

 

全員がキッチンに集合しました。アーブが霜取りと冷蔵庫掃除の趣旨(?)を全員に説明し、みんなは一応納得しそれぞれの食糧品を外に出し始めました。

ところがチェンは、言いました。

「僕は今本が読みたい。霜取りは君らが勝手にやってくれ。僕の食糧の処置はまかせる。捨てられても文句は言わないから適当にやってくれ」

そしてチェンは部屋に戻ってしまいました。

アーブは怒りながらチェンの食糧を取り出し、ほとんど捨ててしまいました。

さてマイクとベキは言われるままに食糧を取り出したものの、次にどうしていいのかいまひとつわからずにぼーっと立っています。アーブはいらいらして言いました。

「ほら、古い食糧とかは捨てるんだよ。この野菜なんて、もう食べられないじゃないかっ!」

アーブはとっくに自分のものについては選別を終了しています。

そして私ともう一人の日本人ヒロは、自分のものを冷蔵庫から出すと、霜取りの道具を探し始めました。

「何かこう、氷を削る物が必要だよね」ヒロが言います。

「倉庫に何かあるかも」Methaとヒロは一緒に倉庫まで出かけていき、鉄のパイプとほうきと塵取りを探してきました。そのあいだ、アーブ、ベキ、マイクはキッチンの椅子に座って待っていました。

 

…さて霜取りが始まりました。ヒロが鉄パイプでがりがり、がんがん、と霜を削ります。Methaは床におちる霜が溶けないうちにほうきと塵取りですくい、庭に捨てに行きます。アーブはその作業をじっと見つめていましたが、1段目の霜が綺麗になると、すかさず自分の食糧をつめこみはじめました。ヒロは2段目の霜取り作業にかかりはじめました。ベキはテレビを見始め、マイクはまだ食糧選別をぐずぐずとやっています。

霜取りが終わると、Methaは自分のタオルをおろして、冷蔵庫の中をふきはじめました。ヒロは今度はどこからか雑巾を持ってきてぬれた床をふき始めました…。

Methaのタオルで冷蔵庫の中がきれいになると、アーブは再び真っ先に自分の野菜や卵をもどし始めました。そして満足したように笑顔で言いました。

「これですっかり綺麗になったよ。よかったよかった」

 

おまえが掃除したわけではないんだぞ〜…わかってんのか〜…。

 

アーブは満足そうに部屋に引き上げて行きました。

ベキはテレビに夢中で、霜取りのことなどすっかり忘れています。ベキの冷凍食品はテーブルの上で溶け始めています・・・。

「ベキ、冷凍庫に戻さなくていいの?溶けるよ」

「あとで〜」

 

冷凍食品はあとでではとりかえしがつかないってこと、わかってんのかあ〜〜…。

 

マイクはまだぐずぐずと自分の食糧をいじっていましたが、結局何も捨てることができず、全部冷蔵庫に戻しました。そしてすまなさそうにMethaとヒロを見つめて言いました。

「霜取りってやったことないからさ。何でやるんだかわかんなかったんだよ」

 

それは、最初に聞いて欲しかったぞ〜〜…。

 

そして冷蔵庫の前には、「労働」によりすっかりくたびれたヒロとMethaが残されました。

「そうは思いたくないけど」ヒロは情けなそうに口を開きました。

「これは世界の縮図だな。言い出しっぺと最後のオイシイところはヨーロッパ人、とりあえず反発するのが中国人、ついて来ないのがアフリカ人。そして働くのが日本人」

「そう。しかもわたしたち日本人、非の打ち所のないチームワーク」

 

しかしこの完璧なチームワークと勤労精神があったからこそ、霜取りと冷蔵庫の掃除は成功裏に完了したのです(?)。これを「犠牲、お人よし」と見るかそれとも「実際にものごとを進めることのできる力」と見るかで、あなたがこの世に対する姿勢は大きく異なることでしょう。

Methaには、「犠牲だ、利用されただけじゃないか」と思う人の方が今の日本には多いのではないかと思えます。

 

本当にそうなのでしょうか?

 

(おしまい)

 

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