英国的冗談生活 ― 「They
don’t want us」
さて、ベンジャミンの「独立撤回宣言」から1週間。平穏な日々を送っていたMethaは妙なメールを受け取りました。差出人はカール。
誰じゃ、これは??Methaにはカールという名に心当たりはありません。
あて先の欄にはMethaを含む何十人という人のメールアドレスが列挙されています。Methaは、よくあるチェーン・メールや無差別広告の類かと思って捨てようかと思いました。しかしその前に一応内容を確かめておこうと思い、開いてみると・・・。
またしても問答無用。そのまま翻訳してみました。
グレートブリテン・北アイルランド連合王国の皆様
我々の大統領選挙にご関心をお持ちいただき感謝致します。本当の政治というものを目にされて、遠く離れた場所からとはいえ、さぞお楽しみいただいていることと存じます。
いつものことではありますが、貴国がまだ世界の主要勢力であると思っていらっしゃるその古風な考えに感服致します。大英帝国に日は没せず!いやっほぅ!そのとおりだぜぃ!
しかし残念ながら、我々はここに、貴国介入のお申し出をお断りすることを宣言致します。まあ、貴国が無理矢理我々を制圧しようとする姿を観察するのも面白いとは思いますが・・・(あなた方のうち96.3%は、貴国がもはや重要な国でないということを忘れてしまっているようですね)。
慎重に検討しました結果、我々は世界で最も歴史ある民主国家としての伝統を引き続き堅持することを決定致しました。実際、世界中の大半の国は、王政復古は「国としての退化」であると考えるのではないでしょうか?
現在のアナクロ的思考から貴国国民を救済するために、我々はここに次の通りの提案を致します。
1.言語とは成長し変化する有機的なものであることを理解して下さい。貴国での現在の発音やつづりがどんな場合でも正しいというわけではありません。例えば先の宣言文で貴殿が使われた「アルミニウム」の例を見てみましょう。金属としての「aluminum」(つづりにご注意下さい)を命名したのはハンフリー・デビー卿(イギリス人)であります。しかし、この金属が一般に使用されるようになりこの名前は「aluminium」というつづりに変化しました ― 他の金属の名前と語感をそろえるためです。しかし1925年、アルミ産業のトップに君臨したアメリカ合衆国は、「本来の」(すなわちイギリスの方が命名した)発音とつづりを正式に採用することにしたのです。何か文句がおありでしょうか?ついでに申し上げると、アルミニウムの製造と生産はアメリカ人とフランス人によって開発されました(イギリス人ではありません)。
しかしながら、貴殿がオックスフォード英語辞典に言及してくださったことには感謝致します。同辞書の初版に掲載されている一万語以上の単語は、ウィリアム・チャールズ・マイナーという頭のおかしなアメリカ南北戦争の退役軍人の監修によるものだと言うことをご存知だったでしょうか?
2. アメリカ訛りとカナダ訛りを区別する訓練をして下さい。英語とオーストラリア訛りに言及するのはその後です。
3. もしイギリス人俳優を正義の味方として映画に登場させたいのでしたら、ご自分で映画を創るほかないでしょう。貴国の嗜好を我々に期待されても困ります。我々は「トレイン・スポッティング」や「フル・モンティ」は好きですし「ビリー・エリオット」もなかなか良いと聞いています。しかし年に一本ヒットを飛ばす程度では、ビジネスにならないのですよ。まあ音楽の方ではなかなかよくやっていらっしゃるようなので、そちらで努力を続けられたほうがよろしいのではないでしょうか。
4. 王座に就く人間が死ぬたびに国歌のタイトルが変わるのは効率的ではないと考えます。あと、貴国の国歌はあまりにも退屈すぎます。どうせだったらあの「ルール・ブリタニア」(訳注:やつらに愛されている「第二の国歌」。内容もすごいのです。「天は我々に告げた − 支配せよ、ブリタニア!ブリタニアは全てを支配するのだ!ブリタニアの民は決して何者にも屈しない!」なんて時代錯誤的な恐ろしい歌詞なのです。ことあるごとにやつらはこの歌で異常に盛り上がるのです!!)を短くして国歌にしましょう。あれは結構ノリの良い曲ですから。もしくは、エルトン・ジョンが「Candle
In The Wind」(訳注:亡きダイアナ王妃に捧げられたエルトン・ジョンの曲)の替え歌でも作ってくれるかもしれません。
5. フットボール?サッカー?申し上げておきますが、我が国は2000年のオリンピックでサッカーは四位でした。貴国は?はて、忘れてしまいました。ところでユーロ2000は印象的でしたね。あなたがたのサッカー・ファンの国際的なお行儀の良さには感銘を受けました。
6. 料理の仕方を覚えましょう。イギリスには、いくらかましなキャンディーがあります。ソルト&ビネガー味のポテトチップスも美味しいです。しかしながら、何故貴国における最上の料理がインド料理と中華料理なのかには理由があります。あなた方が自国料理の芸術に貢献したことと言ったら、ふやけた豆、生ぬるいビール、そしてスポッテド・ディック(訳注:典型的なイギリスのデザートなんですけど・・・この名前は他の英語圏の人にはすごくお下品なイメージを与えてしまうのです…その訳は…ここには書けません・・・)ぐらいなものでしょう。
7. あなた方は車に関して大変誤ったお考えをお持ちです。その典型的な例が、貴国の車は反対側の車線を走っているということです。次に価格の問題があります。イギリスで車を買うより、ベルギーで買ってイギリスに輸送した方が安いというのはどういうことでしょうか。まあ、我々はジャガーやアストン・マーティンズは大好きです。だからこそこれらの会社を買収したのです。
8. J.F.ケネディを誰が殺したのか教えてあげてもいいですが、その前に
"Teletubbies"(訳注:イギリス発の子供向け人気キャラ。詳しくは知りませんが一瞬だけ世界を席巻したらしいです。今はポケモンですけれど♪)を我が国にばら撒いたことについて謝罪して下さらないと。
以上です。どうも有難うございました。
追伸:第二次世界大戦の時のお礼なら、お待ちしています。
…。結局全部読んでしまいました。
どうやら先のベンジャミンの「独立撤回宣言」に対するアメリカ人の反論メールのようです。暇なやつがもう一人アメリカにもいたわけだ。
しかし読み終わった後にも何か釈然としないものが残ります。何かおかしい。何かしっくりこないぞ・・・何だろう?
お気づきでしょうか。これはアメリカン・ジョークではないような気がするのです。この反論メールの内容、書き方、論法、どれをとってもどうもアメリカ人っぽくないのです。それどころかベンジャミンの「独立撤回宣言」に輪をかけてイギリスっぽいのです。この皮肉、このあげ足取り、この重箱の隅をつつくようなオタクな視点、分かる人にだけ分かればいいという不親切な内容。
Methaはもう一度そのメールをよく観察しました。
あっ!!!
Methaは気が付いてしまいました。そのメールのタイトル欄。そこには「They don’t want us」と書いてあるではありませんか。「They don’t want us」…「彼らは我々を必要としていない」。つまり「彼ら(アメリカ人)は我々(イギリス人)の支配はいらないと言ってるよ」ということです。ということは、このメールの送り主はイギリス人ではないのか!?
送り主のカール某のメールアドレスを見てみました。「.uk」のドメインです。ああやっぱり・・・。念のためにベンジャミンに確認してみたところ、やはりイギリス人とのことでした(別にここまでして裏を取らなくてもよかったのですが)。
こいつはイギリス人のくせにアメリカ人になったつもりで、自分の国をコケにするジョーク・メールを一生懸命考えて嬉々として皆にばら撒いたのか・・・見ず知らずのMethaにまで!
暗い、暗すぎるぞ!!(しかもベンジャミンはまたこれに反論メールを出そうと闘志を燃やしていました。やめろー!!)
・・・最後にお友達リチャード(カナダ人。彼とは喋っていても疲れません!)の名言をご紹介します。
「皮肉とは、数ある冗談の種類の中でも最低のレベルの形態である。大したイマジネーションや創造力が無くても簡単に考えつくからである。僕はイギリス人が皮肉や攻撃をネタにしたジョークを言うたびに『うーん、もっとがんばりましょう』と言いたくなる」
よし、これだ。Methaも今度から、イギリス人が何かごちゃごちゃ言おうとしたらにこりともせずにこう言おう。
「もっとがんばりましょう」
いや、まずい。この皮肉。これではまるでイギリス人ではないか…。
こうして善良で生真面目な日本人Methaは永遠のジレンマに陥るのでした。
(英国的冗談生活 おしまい)