外国に住むことになってまずしなければいけないことは何でしょうか。

住居を決める、外国人登録をする、日本大使館に在留邦人届けを出す、電気・ガス・電話をひく、国民保険制度に加入する・・・とにかくその国の「住人」として認めてもらうために、様々なところに連絡をとり、書類を作成し登録し、お金を払わなければなりません。

そう!何もかもお金が第一なのです。

しかし旅行ならまだしも、長期である国に住むとなれば、いつまでもゲンナマをはらまきに巻いている訳にはいきません。また勤務先から定期的にお給料をもらうにも、現金袋でくれと言うわけにもいきません。家賃だって毎月毎月大家さんちまで札束をかかえて訪ねるなんてことはできない相談です。なんてったって銀行口座が必要なのです。

 

日本で普通預金口座を開くとき、どうするでしょうか。印鑑を持っていって銀行に行けば、「口座開設依頼書」のようなものにちゃちゃっと必要事項を記入して、番号札をひいて椅子にすわっていれば、ほぼ開設できたも同然です。カウンターのやさしい笑顔のお嬢さんに記入済みの用紙を渡し言われたとおりに印鑑を押しさえすれば、すぐに口座は作られ、1週間後にはキャッシュカードが送られてきます。あなたの犯罪歴や過去どこに住んでいたかなんてことは聞かれません(もちろんあなたの知らないところでは、金融機関同士で流しあっているブラックリストなどがチェックされていますが)。

 

以前学生としてイギリスに暮らしたことのあるMethaは、イギリスでは日本と違って銀行口座を開くのがちょっぴり大変だったことを知っていました。当時、貧乏学生しかも留学生だった私は、口座は開けたものの、こちらでは至極あたりまえの小切手を切る権利を与えられず、もちろん口座に連動したクレジットカードも発行してもらえず、渡されたのは1回50ポンドまでしかおろせないキャッシュカードだけ。それでも学生のときはあまり不自由しませんでした。住んでいたのが田舎だったので、それも幸いしたのでしょう。

今回ちゃんと「社会人」としてロンドンに住むことになったMethaは、銀行口座を開くまでの当座2ヶ月間の給料と住宅手当、その他もろもろ引っ越し費用等を日本で与えられ、その大部分を現金とトラベラーズチェックに変えて渡英しました。ウン百万も毎日カバンに入れて歩くのはそりゃあ神経がすり減るものです。1日も早く銀行口座を開き、そこにぶちこんじゃいたい!と思うのも無理はないでしょう??そしてMethaはとりあえずイギリス四大銀行の一つといわれるN銀行の支店の門をたたいたのでありました。

 

「面接の予約はしてあるんでしょうね?」

 

受付のババアは開口一番そう言いました。なにぃ、予約?口座を開設するのに予約がいるんかい!

予約がないと言うとババアはうさんくさそうに私を眺め、

「では予約を入れますね。今予約しますと、面接は来週になります。ところであなた、現住所には何年住んでます?」

「まだ引っ越したばかりです」

ババアは勝ち誇ったようにうなずきました。

「それでは、あなたは次の書類を用意しなければなりません。パスポート、現住所に確かに住んでいるという証明、こちらで勤めている会社からの身元保証書、あなたが母国でお持ちの口座がある銀行からの紹介状。」

 

なにぃ?たかが口座ひとつ(しかも当座預金口座なので利子はほとんどつかないちんけなやつだ!)開くのに日本の銀行から紹介状がいるだと?それに現住所を証明する書類って何だ!

 

「現住所を証明する書類とは、たとえば公共料金の請求書ですとか」

イギリスでは公共料金は4半期に1度か半年に1度の請求がほとんどです。そしたら何かい、電気代の請求が来るまで半年間口座なしで待てっちゅうんか!その気持ちをぐっと抑えて、家の賃貸契約書じゃだめですか?と上目遣いで聞いてみる私。

「NO」

たった一言で却下されてしまいました。

「電力会社に頼めば、1ヶ月後に請求書を送ってくれるところもありますよ」

 

がぁぁ!

私は今口座を開きたいんじゃ!

とにかくこのゲンナマを持ち歩きたくないんじゃ!

それに1ヶ月後には海外出張の予定が入っていてそれどころじゃないのだ!!

 

「申し訳ありませんが、書類がそろえばこちらも迅速に手続きを進めますので、とにかく書類をそろえてください」

ババアはそう言い捨て、体半分はすでに去りかけていました。そのあまりの慇懃無礼な態度にさすがに礼儀正しい控えめな日本人のわたしもブチキレてしまい、ババアが全部後ろを向くより早く自分から足音荒く銀行の外へと出ていきました。

 

(つづく)

 

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