結局Methaはデビッド・カードおよびクレジット・カード無しでしばらく暮らさなければなりませんでした。おそらくこの間にしつこく銀行にクレームすれば、もう一度カードの発行手続きができたかもしれません。しかし仕事が忙しくなってきたのと、もう一度「あなたの口座マネジャーG氏」と1時間にわたって面接をしなければいけないことを考えると、ついつい面倒くさくなってしまい、行動を起こす気になれなかったのです。その間は日本の口座のクレジットカードを使用していました。
そして口座開設からきっちり4ヶ月後(こういうところだけはきっちりしているのだ!)、今度は「あなたの口座マネジャーのC女史の秘書」と名乗る人から電話がありました。
え?「Methaの口座マネジャー」はG氏じゃなかったの?
さてはG氏、Methaのカードの申請書を握りつぶしたまま、トンズラしたな!!こういうことだったのか!
・・・これは曲解かもしれませんが、イギリスの銀行や会社では担当者が知らない間に辞めてしまっているということが頻繁にあります。もちろん日本でだって担当者が辞めたり替わったりすることは珍しくありません。しかし問題なのは、イギリスではその担当者間の「ひきつぎ」が全く行われないということです。担当者が変わったとたん、それまで積み上げてきた交渉がご破算になることなど、特別なことではありません。新しい担当者は、自分の担当であるあなたのことなど一切知らずにあなたの人生に踏み込んでくるのです!!なのであなたはまた最初からあなたが何者であるのかを新しい担当者に説明しなければなりません。そして今、それがMethaの身にふりかかってしまったのです。
新しい「あなたの口座マネジャー」であるC女史は、まだうら若いブロンド女性でした。美人ですが、地味なスーツ(銀行員だから当然か?)、控えめな口調、清潔感漂う髪型等々に、日本人Methaはとても嬉しくなりました。
「ではMetha様、データを確認させていただきます」
・・・やっぱり出たよ。データの確認だよ・・・。Methaはもう死んだつもりでC女史の質問に機械的に答えました。C女史は恐らくそんなMethaのうんざりした顔が分かったのでしょう。できるだけ手早く質問を済ませると、言いました。
「4ヶ月経ちましたので、デビッド・カードをお作りすることができますがいかがいたしましょう」
「もちろんつくってください!わたくし、これを待ってたんですのよっ!!」
Methaのあまりの鼻息の荒さにとまどいの笑顔を見せながらも、C女史は要領良くカード申請の手続きを済ませました。余計な質問はしません。マニュアルどおりの雑談もしません。てきぱきと書類を埋めて行きます。気分を良くしたMethaは、ついでに貯蓄口座まで作ってあげちゃいました。これはきっとC女史の営業成績にカウントされることでしょう・・・。いいことをしたもんだ。いつもの半分の時間で最高の結果(?)を手にしたMethaは、ゴキゲンで銀行を後にしました。
そして1週間後、Methaはようやくデビッド・カードとクレジットカードを手にすることができたのでした。これでようやく「普通の人間」になったような気がしました・・・。
そしてさらに1ヶ月後。Methaはすっかり使い慣れたデビッド・カードでお買い物をしていました。そして、事件は起こりました。
「お客様、このカードはご使用できませんが」
「はあ?」
レジの女性がキャッシャーの画面をこちらに向けてくれたので見ると、そこには「rejected(却下)」の文字が。昨日までは普通に使えていたカードです。磁気がおかしくなったのかしら?と思いながらとりあえず別のカードで支払いを済ませました。
おかしいなぁ〜。昨日までは普通だったのに、突然・・・何でだろう?Methaは少し不安になり、近くにあったキャッシュ・ポイント(ATM)で現金をおろしてみることにしました。
・・・やはりだめです。暗証番号を入れたところで、カードは戻ってきてしまいます。Methaはどきどきしながらその足で銀行に向かいました。もしかしたら、知らない間に偽造カードか何かを作られて悪用されてたのかもしれない。限度額一杯まで使われてしまって、だから使用にストップがかかってしまったのかもしれない・・・!!!
Methaはカウンターの女性に言いました。「このカード、使えないんです。理由を調べていただけますか?」
彼女は面倒臭そうにカードをとりあげ、「こちらへどうぞ」と言ってコンピュータのあるデスクの方に向かいました。そして何やらキーボードをたたいたり顔をしかめたりしていましたが、どうも原因がわからないようです。Methaが黙って睨みつけていると、彼女はおもむろにどこかに電話をかけはじめました。そして5分が経過しました。
「お客様、お気の毒ですが、このカードはキャンセルされておりまして・・・」
「キャンセル?どうしてです?昨日までは普通に使えたんですよ。わたくし、キャンセルの手続きなんかしていませんよ」
「ええ・・・ですから・・・」
彼女の声は小さくなりました。
「お気の毒ですが・・・手違いで・・・」
なにぃ、手違いだぁ????手違いって何だ、手違いって????
「違う口座のカードがキャンセルされるはずだったのですが、何かの間違いでお客様のカードが・・・」
なにぃ、口座を間違えてキャンセルだと?そんな間違いが許されると思ってんのか!!
ここは銀行だぞ!!!!銀行業を何と心得てるんだ、ばかやろ〜!!
思わずMethaは声を荒げました(ばかやろーとはさすがに言いませんでしたが)。もう我慢ができません。本当にイギリスの銀行は商売する資格、他人のお金を扱う資格はありません!口座番号を間違えるなんて、信じられないぐらい幼稚なミスです。顧客の信用状況についてはうんざりするぐらいしつこく調べ上げるくせに、自分達の業務の信頼性に付いてはこれっぽっちも注意を払っていないのです!
しかもムカツクのが、彼女は「申し訳ございません(We apologize)」とは言わず「お気の毒ですが(Sorry about this)」という言い方をするのです。
おまえの銀行の過失だ、あやまれー!!!!
Methaのあまりの大声に後ろに並んでいる人達がこちらを見つめています。彼女の声はますます小さくなりました。Methaはもうほとほと嫌になり、できるだけはやく新しいカードを発行するように言い、銀行を出ました。
銀行変えちゃおうかなもう・・・。でもどこの銀行も似たようなもんじゃないか、イギリスは・・・。ええーい、やっぱりイギリスが大嫌いだ!!
(イギリスが嫌いなわけ・銀行編 おしまい)