「Methaさん、お風呂の栓と電球、ドアストッパーは明日にでもお持ちしますよ。お電話下さい。すぐにお伺いします」

 

確かに、「マネジメント」(管理業者のおじさん)はそう言いました。だから、Methaは次の日仕事から帰って来るとすぐに彼の残したオフィスの番号に電話したのです。

「Methaです。今家に帰って来ましたので、すぐに来てください」

それを言うだけでコトは全て解決するはずだったのです。ところが。ところがです。

 

「マネジメント」のオフィスの番号は、何十回電話を鳴らしてもだぁ〜れも出やしません。

ちょっと困ったMethaは(風呂桶の栓だけでもなければ、今夜お風呂に入れないではないですか!)「マネジメント」のケイタイの番号を鳴らしました。「マネジメント」は、「もしオフィスが閉まっている時間帯だったら、このケイタイに電話していただければ24時間いつでも応対しますよ。僕はこの近くに住んでおりますのでいつでも飛んで参ります」と言ってそのケイタイ番号を残していたのです。もしそれが夜の9時とかだったらMethaだってさすがに考えますが、その時はまだ夕方の6時前でした。まだケイタイに電話しても迷惑ではないかな、と判断したMethaは、「マネジメント」のケイタイを鳴らしました。

 

・・・しかし。出たのは留守電メッセージでした。

「ハーイ、お電話有難う!フィルです。ただ今電話に出ることができません。メッセージを残していただければ、すぐにこちらからお電話します。バーイ!」

なーにが、ハーイ、フィルです、バーイ、だっ!Methaはちょっぴりぷるぷるしながら、それでも気を取りなおしてメッセージを入れました。

「●●通りフラット●号のMethaです。今日、電球とドアストッパーと、それからお風呂の栓を持ってきていただく約束だったと思いますが、早急にお願いします」

 

・・・そして何の反応がないまま、4日が経過してしまいました。

その4日間もちろんMethaは黙って指をくわえていたわけではありません。しかし何度電話しても、「マネジメント」のフィルは電話に出なかったのです。なので、仕方なくMethaは、ティッシュを何枚も重ねてビニール袋に詰め、それをお風呂の栓の穴に押しつけて型をつくり、自家製即席風呂桶栓を作成して急場を凌いだのです!(そこらへんの日用品屋で栓を買うことはもちろん可能でしたが、「マネジメント」がきちんと責任を果たすまで、Methaは断固闘うつもりだったのです!)

 

「Metha、『マネジメント』のフィルはちゃんと約束のものを持ってきたかしら?」

5日目、大家の代理人であるシンガポール人のおばさんが心配して電話をかけてきてくれました。いい人です。控えめで忍耐強い日本人Methaも、さすがについついぐちを言ってしまいました。

「いいえ、まだなんですよ、実は。あれから3回ほどフィルに電話したんですけど、誰も出ないんです。わたくし、困っているんですよ。特にお風呂の栓。この寒いのにシャワーばっかりじゃあ、冷えちゃって腰を痛めちゃいますものねぇ〜」

同じアジア人であるそのおばさんは、Methaの気持ちを非常に理解してくれました。

「わかるわ、Methaさん。それは大変だわよ。OK。これから私からマネジメントに電話して、今日の晩必ず、必要なものを全て持って行くように言っておきます。今日は何時ごろお家に戻っているかしら?」

大家さん(の代理人)から催促してもらったら、これは絶対にきくだろうと思ったMethaは、嬉しくなりました。そしてその日の夕方6時には家に戻るので、「マネジメント」がお風呂の栓を持ってくるのを待っています、と約束したのです。

 

・・・ところが、その日も「マネジメント」のフィルは現われませんでした。

 

「誰も来ませんでしたよ」

次の朝、再び心配して電話をかけてくれた代理人のおばさんに、Methaは半分あきらめ気味で言いました。お風呂の栓だけでも、もう自分で買っちゃおうかな。日本人Methaは少し弱気になっていました。しかし今度はおばさんが闘志を燃やし始めたのです。

「なんですって!昨日あれだけ言ったのに!何てコトなんでしょう!いい、Methaさん、これがこの国のやりかたなのよ。アタシはもうここで30年も商売やってますからね、連中の仕事のいいかげんさには、ホント迷惑してますよ。Methaさん、負けちゃいけませんよ。いいわ、これからもう一度アタシ、マネジメントに電話します。何が何でも今晩、持ってきてもらいますからねっっ!!」

「はぁ〜。わかりました。待ってます」

おばさんの迫力に押されて、Methaはもう一度だけ待ってみることにしました。

 

そして・・・その日、自分の家に帰りついたMethaは、見たのです。

 

Methaのフラットのドアのノブに、白いスーパーの袋がぶら下がっていました。

「?」

中を見ると、お風呂の栓が一つ、無造作に入っていました。しかも何やらレシートも一緒に入っています。そのレシートは、Methaの家から歩いて3分も離れていない、DIYショップ(日用大工のお店)のものでした。

 

なんじゃ、こりゃ???

Methaは唖然として言葉もありませんでした。

Methaがやってほしかったのは、お風呂の栓をきちんとチェーンにつけて、なおかつ切れてる電球も付け替えて、そして「ご迷惑おかけしちゃって」とかなんとか笑顔でドアストッパーを手渡してくれることなのだっ!それがお前らの仕事ではないのかっ!!

「マネジメント」とは、近所の店でお風呂の栓を買って来て、それをMethaのドアにぶらさげることなのかい??

 

そんなもの、Methaが自分でできるわい!バカヤロー!!!!!

 

(つづく)

 

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