マリオ(ブラジル・イタリア)

 

マリオとMethaのエピソードは劇的です。

 

それは運命のドラマと呼んでも良いような、偶然に偶然が重なったフシギな体験でした。それだけにこのお話は涙無くしては語れない、Methaの大切な大切な「一夏の思い出」そして「人生の教訓」となったのです…。

 

二人が出会ったのは、ある蒸し暑い夏の夜、東京は竹芝桟橋でした。そう、伊豆七島に渡るフェリーが出るあの竹芝桟橋です!

Methaはその日、「キャンプ&魚釣り&いるかと泳ごう!」という楽しい夏休みを過ごすため、キャンプ用の鍋やら食糧、それにテントを携え、フェリーを待つ列に並んでいました。しかし他の仲間たちはみんな非常に時間にルーズな人達ばかりです。

「Metha、先に行って切符買って並んどいて。よろしく」

Methaは一足先に大荷物を抱えて竹芝桟橋に向かい、みんなの分も切符を買い、そして乗船待機をする広場の列に並んだのでした。何てケナゲなMetha。しかし神様はそんなMethaの心の美しさをちゃーんと分かっているのです!

 

その時、Methaのすぐ前に並んでいたのが、マリオだったのです。マリオは他に二人の外国人男性と一緒でした。

 

フェリーに乗船する時、乗客は「乗船登録」をしなければなりません。住所や連絡先や名前などを用紙に記入し、乗船する際に係員に渡すのです。列に並びながら、Methaは用紙に記入していました。しばらくするとマリオ達はMethaが何やら書いているのに気付いたらしく、じっとこちらを見ました。そしてぼそぼそと英語で話し始めました。

「あれ、この紙に何か書かなくちゃいけないみたいだよ」

「ああ、そうだね。住所とか名前を書くのかな」

「ペン持ってる?」

マリオ達三人はごそごそとカバンをひっかきまわしましたが、ペンは見つからなかったようです。三人の助けを求める視線を感じたMethaは、自分達の用紙を書き終えたところでマリオにペンを差し出しました。

「これ、使いますか?」Methaは日本語で言いました。

マリオはにっこりしてありがとう、と日本語で言いMethaの差し出したペンを受け取ると、少し間をおいて今度は英語で言いました。

「あなた、英語喋れるでしょう」

Methaはマリオの唐突な質問にちょっと笑いました。「どうして、そう思うの?」

「だって、英語がしゃべれるような顔をしてるから」

マリオはまたにっこりして言いました。

「僕、マリオです。あなたは?」

 

マリオは三人の中で一番おしゃべりでした。そして一番キュートな顔をしていました。栗色のふわふわのくせっ毛に天使のような童顔、無邪気な笑い方がとても無垢な感じです(一方彼と一緒にいた二人については、今ではどんな顔だったかさっぱり思い出せません!!)。マリオはこちらが聞いてもいないのにがんがん自己紹介をはじめました。

「両親はイタリアなんだけど、僕自身はブラジルで生まれ育ったんだ」「日本に住んでもう4年目になるかなあ」「最初は学生として日本に来たんだけど、気に入っちゃってそのまま働き始めちゃった」「今働いてるのは、ドイツ系の会社。楽しいよ」「今からハチジョージマに行くんだ。Methaはミヤケジマなの?」「来年はオガサワラに行きたいなあ。でも遠いよねぇ」・・・

一通り喋り終えると、マリオは「さあ、Metha、今度はキミの番だよ!キミは何をしているの?どうして英語が喋れるの?キミの全てを教えてよ!!」とMethaに迫ってきたのです!おおっ、この押しの強さ!これがラテンの血なのかっ!!

こう見えてもMethaは人見知りがハゲシイ方なので、初対面の人に自分の素性を明かしてしまうことは滅多にありません。しかしマリオのその余りにも愛らしい様子に、Methaは知らず知らずに自分のことをべらべらと(何故か年齢まで!)喋ってしまいました。

「Methaは何の仕事をしているの?」

Methaはちょっと困りました。Methaの職業は少し人には説明しづらい内容だからです。どう説明してもすぐには人に分かってもらえないような職業なのです。Methaはどうせ分からないやとタカをくくって、「きっと分からないと思うけど」と前置きして何の説明も無しに自分の職業の名前を言いました。

するとマリオはさらりと明るく言ったのです。

「ああ、そうなの?僕、ブラジルにいる時同じようなことをしてたよ。偶然だなあ、懐かしいなあ!」

Methaはビックリ仰天しました。この広い世の中、Methaとの職業をイッパツで理解する人、しかも同じギョーカイの人に会うことなんてほとんどありません。しかもこんな竹芝桟橋で!!!

 

それからほど無くしてMethaの仲間達が集合し、乗船が始まりました。Methaは泣く泣く(?)マリオ達にお別れを言いました。「じゃあね。船の中で会うかもしれないけど…楽しい夏休みをね!」

しかし結局その後もマリオとは船内で鉢合わせたりすることはありませんでした。

 

キャンプから帰ってきて一週間後の週末、Methaはお友達のチエミちゃんと一緒に六本木に遊びに行きました。

当時Methaはサルサに熱中していて、土曜日になるとよく六本木のとあるサルサクラブに出没していたのです。サルサクラブにも色々ありますが、Methaとチエミちゃんが常連となっていたのは、南米の人達が「あそこは音楽も雰囲気もいいし、ナンパ目的でなくちゃんと踊りたい人には最高!」と絶賛するとあるクラブでした。

その日もクラブのフロアは、南米系の人達でごったがえしてものすごい熱気でした。音楽がコロンビアのヒットソングを流し始め盛りあがりも最高潮に達した深夜12時過ぎ、少し休もうと思って入り口近くのテーブルに腰を下ろしたMethaは、見たのです。

 

クラブのドアを開けてどやどやと入ってきた何人かのグループの中に、あのマリオの顔を!!

 

Methaの脳裏に、あの日の竹芝桟橋がフラッシュバックしました。これは偶然ではない!これこそ運命の赤い糸である!Methaはもう120%確信していました。様子のおかしいMethaを不審そうに振り向いたチエミちゃんは、Methaの視線の先を追い、マリオを発見しました。マリオに竹芝桟橋で会ったことは、チエミちゃんにも言ってありました。抜群にカンが冴えているチエミちゃんはすぐにぴんと来たようでした。

「もしかしてマリオなの?そうなの??行かなくちゃ!ほら、行くわよっ!!」

「いや〜ん、だめぇ〜。恥ずかしい〜」

壮大な運命の力の前に(?)ガラにもなく怖気づいているMethaをひきずるようにして、チエミちゃんはマリオの前に踊り出ました!!!当然マリオは突然のことにあっけにとられて目を丸くしています。

「あなた、マリオ?」

チエミちゃんはいきなりストレートにそう言いました。「はい」マリオは口をぽかんとさせたまま、素直にそう答えました。そらそうだわな。その返事を聞くとチエミちゃんはすかさず、横で凍り付いているMethaをマリオの前にぐいっと押し出しました。そこでマリオは初めてMethaの方を見ました…でも思い出さないようです。やっぱり覚えてないんだ…。Methaは少しがっかりしながらも、横でMethaの脇腹をぐいぐいと押すチエミちゃんに脅迫されて、おずおずと口を開きました。

「あの…先週、会ったよね」「え?どこで?」「…竹芝桟橋で」次の瞬間マリオの顔がぱっと笑顔になりました。

「ああああ〜っっ!!Methaさん!!!」

マリオはちゃんとMethaの名前を覚えていてくれたのです!何てスバラシイのっ!やっぱり運命の人なんだわっ(最初に彼がMethaの顔を思い出せなかったことなんてもうきれいサッパリ忘れています)!

「すごい、すごい。すごい偶然!!」マリオもコーフンしています。「ここに来るのはまだ2回目なんだよ。そんなので会えるなんて、すごいよ。元気だった?夏休みはどうだった?僕達のも楽しい旅行だったよ…」あの竹芝桟橋での会話と同じように、マリオは天使のような笑顔でにぎやかに喋り出しました。

 

そして何と更に驚いたことに、その晩マリオと一緒に来ていた何人かの友達のうちの一人は、チエミちゃんの知り合いだったのです!これにはチエミちゃんもビックリしていました。こ、この広い東京でそんな偶然ってあり得るのでしょうかっ?しかも全てはこの2週間のうちに起こっているのです。もうこれは運命を信じるしかありません。よし、何としてでもこの縁を逃してはならん!!…(?)。Methaの決意はいやが上にも高まりました。

 

六本木での劇的再会の数日後、Methaはチエミちゃんにあるお願いをしました。

「チエミちゃん、お願いっ!あなたの知り合いに頼んでマリオの電話番号聞いてもらって!」

普段のMethaならこんな積極的であからさまな(?)攻勢に出ることはほとんどありません。しかし何てったって今回は運命の人。何をやったって許されるはずです!!ノリの良いチエミちゃんはいやな顔一つせず、例のマリオの友達に連絡をとってくれました。

 

そして更に数日後、チエミちゃんから電話がありました。何だか非常にハイな様子です。

「Metha!連絡したわよっ!」

「きゃーっ。どうだった?電話番号貰えた?」

「いや、ちょうどマリオは引っ越したばかりらしくて、新しい番号がわからなかったの。今度聞いておいてくれるって。でもさ、そんなことよりもさ!!」

「ん?」

「マリオ…さ」

「なぁに?」

「彼、ゲイなんだって」

「ふーん、そうなんだー。え゛っ…

 

そう。そうなのです。マリオはMethaなんか、女の子になんか、ちーっとも興味などなかったのです。後に判明したところによれば、竹芝桟橋でマリオと一緒にいた他の二人のうちの一人は、マリオの彼氏だったのです。

じゃあナンだったんだよ、あのキュートな笑顔は、あの「キミのこと何でも教えて!」というセリフは、あの桟橋での盛りあがりは、あの六本木での再会は、あの「赤い糸」は…(もう殆ど言いがかりです)!

 

その後皮肉なことに、更にマリオとMethaの間には他にも共通の友人が何人かいることがわかりました。そしてその共通の友人達が開くバーベキューパーティやサルサ・ナイトなどで何度か鉢合わせることになるのです。

やっぱりこれは運命なのでは??こんなに世界が重なっているなんて…偶然にしてはできすぎているのではないかしらっ???

Methaはハゲシイ心の葛藤に悩まされました。

そして会うたびに「きゃぁ〜、Methaさん、また会えた〜♪♪」とはちきれんばかりの笑顔で飛びついてきて、ほっぺたにぶちゅーっとキスをしてくるマリオを抱きとめながら、Methaは非常に複雑な気持ちになるのでした。

 

ま、「運命を感じる瞬間」なんて所詮は思いこみなのさ。はっはっはっ。

 

(マリオ・おしまい)

 

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