1.オレーグ1号
オレーグ1号はMethaにロシア語を教えてくれているゲイの男の子です。Methaにはゲイの友達が結構いたりしますが、ロシア人のゲイ友達はオレーグ1号がはじめてです。オレーグはレッスン中、Methaがとてもよろしい答えをしたりすると、すごく満足そうに「まあ、なんてお利口さんなんでしょう!」と誉めてくれます。また宿題を忘れてきたりすると、顔をしかめて「いけない子ですね〜」と言います。
よく、「ゲイの友達は女友達のように何でも話ができる」と言いますが、「先生と生徒」という関係のせいか、オレーグはMethaにとってお母さんのような存在です。しかし冷静になってみると、同年代の男性が「お母さん」のように見えるというのは二重、三重にヘンな感じです。
一方、オレーグとMethaは音楽とかハヤリのものについては、同年代なので結構話が合います。オレーグの貸してくれるロシアン・ポップスは結構イケてます。学校では学べないようなロシア語のスラングも教えてくれます(ちなみにロシア語で「イケてる」は「クリョーバ!」と言うらしいです。その他「とっとと失せやがれ!」という言い方も習いました。いつ使おうかな?)。
オレーグの主張は、「言語を学ぶためには、その言葉の背景にある人々のメンタリティーを理解しなければならない」です。正論です。同感です。というわけで、オレーグはMethaに様々な「ロシア人のメンタリティーを理解するための時間」を提供してくれるのであります。それは具体的にはどういうことかと言うと、ビデオ鑑賞です。普段はテレビ番組の録画を見せてくれます。歌番組やコメディーなど、バラエティー番組などが主です。なるほど、それらの番組を見ると、ロシア人が「面白い」と思うものは何なのか、ロシア人が夢中になる歌というものはどういうものなのか、何となく分かるような気がします。(別にMethaはそこまでロシア人を理解したいとも思ってないのですが・・・。)
ある日オレーグは「面白いビデオを見せてあげる」と言って戸棚を探し始めました。
「なに〜?アダルト・ビデオ?」Methaは冗談でオレーグに言いました。
「ふっふっふっ、それよりももっとすごいものだぞ〜」オレーグはアヤシク笑い、ビデオテープを取り出しました。Methaはどきどきして待ちました。何故ってオレーグが「すごい」という時はホントに「すごい」からです。アダルトビデオよりもすごいロシアのビデオって何だろう・・・。
テープがスタートしました。ホームビデオです。逆光で撮っているのでよく見えませんが、どうやら食事の風景のようです。10人ぐらいの男女がテーブルについて大騒ぎをしています。
「これはね、前僕が持ってたフラットで友達の誕生パーティーをした時のビデオ」
「なんだ、別にすごくないじゃん」
「これからすごくなるんだよ」
オレーグの説明によると、そこに映っている人々は皆「教養のある人達」なのだそうです。作家、芸術家、大学教授、科学者・・・。中にイタリア人とイギリス人の女性が混じっていました。そろそろ宴もたけなわ、何やら演説が始まりました。友達が主賓のために乾杯の挨拶をしているのです。オレーグはそれらの演説の中から使えそうなフレーズを書き出してMethaに教えてくれますが、Methaはそれどころではありません。目はビデオに釘付けです。ビデオの中の人達は既にべらんべらんに酔っ払っているみたいです。ビデオの中のオレーグ(今とは違ってすごくヘンな髪型をしています)もバカ笑いをしています。音声は更に騒がしくなり、もう誰が何を言っているのかわかりません。
「パーティーではこれ以上はないっていうぐらい酔っ払うのがいいんだよ、ロシアでは。羽目をはずせばはずすほどいいんだ。それがインテリのおふざけなんだよ」
イタリア人の女性がアップになりました。彼女の目は、おびえる子羊のようでした。
「なんか、彼女、びっくりしてない?」
「う〜ん。そりゃあこの雰囲気にびびってるんだよね。でも大丈夫。見ててごらん」
一気飲みが始まりました。ご存知の方もいらっしゃるでしょう。二人が向かい合い、グラスを持った右腕同士を交差させて一気のみするアレです。
「こういう飲み方をした後は、飲み干した後お互いキスしなきゃいけないんだよ」
なにぃ?それは初めて聞いた。それはオレーグ家にだけ伝わる伝統なんじゃないの?
「男同士がやったらどうなるの?」
「当然キスするさ」
「ひぇぇぇぇ〜」
画面ではオレーグの言葉通り、男女構わず一気飲みしてはキスしまくっています。しかもそのキスはただのキスではありません。濃厚このうえない、ブッチュ〜というキスなのです。もちろん男同士でもやっています。そして、おびえていたイタリア人の女性は、とうとう雰囲気に流されてオレーグと一気飲みをしてしまいました。そして勿論、そのあとはオレーグに無理矢理キスされました・・・最初少し彼女は抵抗していたみたいですが、オレーグに床に押し倒されてしまったのです・・・。イタリア女性を床に押し倒すとは・・・おそるべし、オレーグ!!
「ほらね、これでもう彼女も仲間だよ」
オレーグは得意そうに言いました。そういう問題かねぇ〜・・・とMethaは思いました。
パーティーは続きます。今度はダンスが始まりました。みんな酔っ払いなのでふらふらですが、それでも誰彼かまわずカップルになり、ぐるぐると踊っています。誰が誰の奥さんで誰のダンナであろうが関係ありません。手当たり次第に抱き合ってキスするわ、セクシーなダンスを始めるわ、床に倒れるわ、脱ぎ始めるわ、もはやこの世のものとは思えません(オレーグはかつらをかぶってどこからか再登場しました)。
そのうち音楽が変わり、コサックダンスのようなリズムの伝統的な音楽になりました。すると皆は肩を組んで輪になってぐるぐるとまわりはじめました。その途中でしゃがんだりとびはねたりします。リズムはどんどん速くなっていきます。
「これで酔いが完璧にまわるんだよね〜」
・・・もう十分まわってるではないか。気持ち悪くなっちゃうぞ。Methaは思いました。
ビデオはさらに続き、さらに恐ろしい世界が繰り広げられていました。あまりにも恐ろしすぎてもうここには書くことができません・・・。
「これがロシア人の姿だよ。ロシア人は内と外との落差がすごいんだ。内側は外国人にはなかなか見せないよね。知識人であればあるほど、パーティーの時のはめのはずしかたはすごいんだよ」
ビデオが終わって、オレーグは言いました。
いいよ、もう。ロシア人の内側なんか知りたくないぞ!!Methaは思いました。わたしは常識的で冷静で、控えめな日本人なのだ!
日本の飲み会とかも相当に下品だと思っていましたが、ロシアのそれは、そんなレベルではありません。下品とか上品とかの世界ではないのです。それはもう四次元の世界でした。そうか!ロシア人はウチュウ人なのだ!
そしてその日のレッスンが終わるとオレーグは言いました。「今週の土曜日、パーティーがあるんだけど、来る?皆に紹介するよ」
なにー!そういうオチがあったのだ!
オレーグはロシアン・パーティーの何たるかをMethaに教えることで、カルチャーショックを受けないように配慮してくれていたのです!この配慮はやはり感謝すべきなのでしょうか?
さて後日。そのパーティーに、Methaは行ったでしょうか、行かなかったでしょうか!?