1.サムヴェル

 

Samvel & Methaサムヴェルはとてもに頼りになる人です。車の運転はうまいし(もちろん吹雪の山道でもチェーン無しでへっちゃら)、地図を見なくても国中どこへでも行けるし、いざとなったら、ドラえもんのポケットのように何でも出してくれるのです(電気の壊れた教会で電球を取り出して取りつけた時は、仰天しました)。

おまけに彼はこわもてなので、ダークスーツを着ると結構イケテルボディーガード風になります。

実際サムヴェルは、Methaの行くところなら地の果てまでも黙って影のようについてきてくれる頼もしいアニキです。

 

ある日Methaとサムヴェルは北に向かって山岳地帯を車で走っていました。吹雪がひどくなってきたので、サムヴェルは一旦車を止めました。サムヴェルの車は旧ソ連製のおんぼろラダです。ソ連製なので暖房機能はばっちりなのですが、きちんと窓ガラスが閉まらないため、隙間風が入ってきて車内はだんだん冷え始めました。

「サムヴェル〜、さむいよう〜」

Methaは泣きそうになりました。もう春だとたかをくくっていたMethaは、薄いジャケットしか持っていなかったのです。するとサムヴェルはおもむろに運転席の足元から何かを取り出しました。

「飲め」

それは自家製ウォッカの瓶でした。

「今そんな気分じゃないよ〜。気持ち悪くなっちゃう」

「いいから、飲め

 

サムヴェルにすごまれたMethaは仕方なく瓶に口をつけ、一口、二口飲みました。

するとどうでしょう。5分もすると、Methaの体はぽかぽかしてきたのです。しかも頭ははっきりクリアー状態です。もちろん気持ち悪くなったりもしていません。そうなのです。ものすごく寒いところでは、ウォッカは酔っ払わずに暖かくなれるという素晴らしい効果があるのです。ロシアなど寒い国の人が大酒飲みであるという悪評がありますが、このような理由もあるのではないでしょうか。

 

「おお、サムヴェル、あったかいよ!!」

「言ったろう」サムヴェルは満足そうでした。

「これも生き残る方法の一つだ」

 

サムヴェルは特権階級の子息でも何でも無いので,18歳の時の兵役は何のコネもなく、いきなりウクライナとポーランドの国境のド田舎に送られました。

「どうしてウクライナなの?」

「そんなの、知らん。行けって言われたから行ったのさ」

軍隊では上官に殴られたり蹴られたりしながら、毎日毎日走っていました。

コネがあったり上官に賄賂を贈ったりすれば、3年間の兵役はいくらでも短くできます。サムヴェルと同時期に入隊した他の若者達も、何とかして上官に話しをつけて、10ヶ月、1年ぐらいで故郷に帰っていきました。でもサムヴェルはコネもないしお金もなかったので、みっちり3年間兵役を務めるしかありませんでした。

「兵役を短くしてもらうなんて、考えもつかなかったな。それが俺に与えられた人生だと思ったし、他人は他人だしな。うーん、ただ単に俺は知恵が足りなかったのかな?」

それでもサムヴェルは兵役のせいで青春を無駄にしたとは思っていません。軍隊でとても沢山のことを学んだからです。

「結構充実してたぞ。重車輌の運転、武器の使い方、酒の飲み方、最低の条件で生き残る方法、いざとなった時逃げるタイミング・・・そして戦うってことは本当はどういうことかってことを学んだな。軍隊も悪いことばっかりじゃないさ。」

「Metha、お前がこうやってアルメニアの雪道を安全に走れてるのも、俺の軍隊生活のお陰だ。感謝しろ」

「は、はは〜サムヴェルさま〜」

 

そして我々は再び旅を続けたのでありました。

もちろんサムヴェルは一滴だってウォッカを口にしませんでした。

 

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