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七田眞

『赤ちゃんはみんな天才』

七田眞 ,『赤ちゃんはみんな天才』,産經新聞社,1993.03.30., ISBN4-594-01127-6, \854+税.

書評

七田眞氏は右脳教育理論の幼児教育"七田チャイルドアカデミー"なる民間教育機関の校長.まぁ要するにこのチャイルドアカデミーの宣伝本.七田眞氏の著作についてはと学会編『トンデモ本の逆襲』のP.123〜126で藤倉珊氏により『赤ちゃんは算数の天才!』という本が紹介されている.

本書も,藤倉氏の言葉を借りれば<タイトルそのままの本>である.七田氏によれば,胎児や乳幼児は超能力を持っており,生まれ落ちて成長してゆくうちにその能力はしぼんでしまうのだという.七田式教育は要するに,その「赤ちゃん」の超能力の要である,右脳の発達を促すことにより,超能力が低下しないようにするものらしい.

確かに人間の脳は右半球と左半球に別れているが,実は右脳と左脳の役割分担ははっきりとは分かっていない.一般には言語中枢は左半球にあるけど例外もあるし,ましてや,理論的な思考は左脳が行い,直感的な洞察は右脳が行う,というような俗説はまだ実証されていない.

そういう現状があるにもかかわらず,右脳を発達させればコンピューター並みの計算能力がつくだとか(正確には右脳が持つコンピュータ的計算能力(!)を発揮させられる)ESPカードを見抜く透視能力がつく(これも右脳が生来持っている能力を発揮させるわけ)とかいうことを述べているのが七田式教育理論だ.

もっと細かく見てゆくと,「意識(左脳)無意識(右脳)」なんていうデタラメが書いてあったりするし(P.7),P.4に挙げられた右脳の能力とされるものは次のようなものだ.

  1. 一目で多くの数を言い当てられる能力
  2. 複雑な計算を計算機より速くやってのける能力
  3. 一目で一ページを暗記する能力(これを直感像の能力といいます)
  4. カレンダーの曜日をいつの年のでも言い当てる能力
  5. ESPの能力(ESPの能力にはテレパシー、透視力、触知力、予知力などがあります)
  6. 言葉をコンピュータ的に覚える能力
  7. 絶対音感の能力

右脳ってすげぇなぁ.「まだまだこのほかにも、たくさんの不思議な能力が隠されています」というのだから,東海道線の駅名を順番に全て言える能力もあるに違いない

当然これらは擬似科学そのものであり,オカルトの領域にまで踏み込んでいる.擬似科学やオカルトに根差した教育を行っているのだから,これはもう教育カルトと呼んで差し支えないはずだ.

そもそも,七田氏によると「天才」とは計算が速くできて,直感像能力者で,カレンダーの曜日が言い当てられて言葉をコンピュータのように覚えられて絶対音感があるというようなものだというのが滑稽だ.んなもん電卓やカメラやコンピュータのカレンダーソフトやワープロソフトや音響解析プログラムに任せればいいっての.コンピュータだけで科学技術は進歩しないし,カメラだけで素晴らしい写真は撮れないし,絶対音感だけで人の心を打つ音楽はできない.こういった比喩で七田氏が何を見落としているかはお分かりになろう.

他にも本書のオカルト的な箇所は山ほどある.もう一つ抜き出せば例えば以下などもそうだ(P.100).

 人間には、何万年もの昔言葉のない時代がありました。

 その時代の人間たちのコミュニケーションは何で行われていたのでしょう。

 テレパシーによって行われていたのです。すべての動植物にこのテレパシーによる交信能力があります。

<略>

 人間は胎児が一番原始的な存在です。そして原始的であるほど、この原始的な交信能力=テレパシー能力が高いのです。<後略>

「胎児が一番原始的」ってのもなんか大胆な表現.植物のテレパシー能力に関しては,トンデモ本のファンの方にはおなじみの三上晃氏の研究が紹介されている.類は友を呼ぶというべきか.

こんなわけだから,七田式教育の最大の眼目は,子供が超能力を身につけるところにある.なので,これが本当に効果的なら,藤倉氏も指摘するように,現在は「超能力者が続々と出現していることになり、まさに驚異的である」(『トンデモ本の逆襲』P.126)という状況にあるはずだ.

で,けっこう小さいお子さんを持つ親御さんに知名度のある七田チャイルドアカデミー,30年と言われる歴史があるのに,超能力者が続々輩出したという話は寡聞にして知らない.なので,もしかしたら藤倉氏の「もし七田氏の主張が誤りならば、二万人もの赤ん坊に、とんでもない仕打ちをしていることになり、やはり驚異的である」というのは図星を突いちゃってるかもしれないななんて思ってしまったりする今日この頃である.

もっとも,遊佐昭子氏の本のところでも書いたが,七田式教育で超能力がつく,ということを証明するには,それで超能力がつく,ということをいくら主張しても不十分で,七田式教育をやらないと超能力が身に付かない,ということも合わせて主張しないと,たとえ超能力者が育ってもそれが七田式教育の効果なのか,もっと別の要因(例えばその子はウイッチクイーンローズから生まれたのかもしれない)によるのか判断できない.それ以前の問題として,超能力者が続々輩出されたという事実がありそうにないのだから(2ch掲示板育児板などを見ても,七田式教育を支持する方が沢山いるのに,子供に超能力が身についたと言っている人が一人もいない),そういう心配は余計なお世話なわけだが.

七田チャイルドアカデミーについてもう少し補足すると,このサイト,ざっと見ただけでもトンデモな主張が2,3見つかって楽しめる.

牛乳は体に悪いのだそうで,子供にはできるだけ飲ませない方がよいとある.うちの子供がアニメのビデオばっかり観ていてご飯をちゃんと食べないのは毎晩牛乳を飲ませているせいだろうか(笑).

電子レンジのマイクロ波が人体に有害なのは当然だが(直接照射したら人間が調理されちまう),電子レンジの外にそれが漏れるほどシールドが甘いわけはないので,使用中は近寄るな,というのは気にし過ぎだ.人間は光や赤外線以外の電磁波を普通知覚できないが,マイクロ波のパルスを脳に当てると被験者にはそのパルスに相当する音が聞こえるそうである(吉永良正氏の『電磁波が危ない』より).電子レンジを目の前で使っても,そういうのも今まで感じたことがない.まして,調理後の料理は,熱が残っているだけである.電子レンジで調理した料理が,他の方法で調理した料理に対し有害だとはとても考えられない.電子レンジで野菜を調理すると,油が不要だったり,ビタミンCが水に溶けだすのを防げるため,むしろ体にいい料理ができるケースもある.家電製品が普通の人にとってブラックボックスだからといって,それにつけこんで不安をあおるのはどうかと思う次第である.トースターからも電磁波が出てるぞ,って,こんなんで脅される方もナニだが.

『警告! 間違った子育てが家庭を崩壊させる』

七田眞, 『警告! 間違った子育てが家庭を崩壊させる』,文芸社,2001.05.15., ISBN4-8355-2075-0, \1200+税.

書評

七田眞氏はトンデモ本の佳作を連発してくれて嬉しい.21世紀になっても相変わらずである.

七田式教育における「子育て三種の神器」は,「愛」「厳しさ」「信頼」と紹介されている.しかし,本書を虚心坦懐に見るならば正しくは「絵本」「CD」「テキスト」のはずだ.それらが「三位一体」となったものが「家庭用学習教材マザーステーション」で,本書はこの教材の宣伝が第一目的なのだと思う.

本書でも相変わらず七田氏は独自の突っ走った右脳理論を展開する.第二章「右脳教育と全能パワー」は右脳の素晴らしい能力のオンパレードに目も眩む思いである.まずはP.47.

 十二月十日(金)夜、男の子を出産しました。<略>五ヶ月の時は超音波診断装置で写真を撮った際『Vサインをして写ってね』と頼んでおいたら、その通りVサインをして写ってくれ、家族を楽しませてくれました。

とさっそく読者を楽しませてくれます.また,P.62では,

 ノストラダムスの予言の解説書を書かれた池田邦吉さんも、ほぼ同じ体験(筆者註:右脳によるとされる画像イメージが見える体験)をお持ちです。

 池田さんは学校で授業を受ける時、教室の壁が消えて、いっぺんに三つの教室の授業が分かるという体験をお持ちの方です。

 テストの時は、学習したことが全てイメージで見えてくるので、やはり常に一〇〇点でした。<略>

なんと,TVでおなじみの池田<池ちゃん>邦吉氏だ.実はすごい秀才だったと分かる.これで七田式教育を受けていれば予言の解釈も間違えないですんだかもしれない(笑).右脳の能力がいくら高くても池ちゃんレベルと見るべきかもしれないが.

これらはほんのジャブであって,本書での右脳理論の白眉はいわば「右脳健康法」と呼ぶべきそのすさまじいまでのヒーリング効果だろう(P.59).

 右脳の無意識の能力回路には、肉体を一〇〇%コントロールする管理力があり、右脳の能力回路、または作業回路を自分の意思で使う方法を学べば、いくらでも奇跡的な現象を起こすことができます.

 たとえば子供の能力を向上させたり、病気を治したりすることさえ、自由にできるのです。

でどんな病気が治るかといえば(P.60),

 アトピーだけではないのです。ぜんそくが治った、脳の腫瘍が治った、白血病が治ったという報告まであります。

 右脳にはこんなすごいパワーが秘められているのです。

すげぇ,七田チャイルドアカデミーさえあれば医者なんていらないぞ.野菜スープもびっくり.というか,幼児用教材や民間の幼児教室には薬事法は適用されないのか? 幼児教室の校長がここまですごいことをいい切ってしまうことこそ,「奇跡的な現象」ではないかと思えてくる.

七田チャイルドアカデミーでは,超能力者が続々と輩出されるばかりでなく,健康で不死身な子供が続々と育ってゆくのであろう.21世紀は素晴らしい時代になりそうだ.

ところで,『赤ちゃんはみんな天才』で思いっきり宣伝していたドッツカード,本書ではかけらも出てこない.どうやら,版権がらみで使えなくなってしまったらしい.前著では右脳開発の要みたいな扱いだったので,ドッツカードなき今,七田チャイルドアカデミーでそんな万病を直すほどにまで右脳の能力が高められるのかどうか,ちょっと心配な今日この頃である.まぁ大きなお世話だろうけど.

関連サイト

自閉症に対する問題書籍
筆頭に七田眞氏の本が挙げられています.とある所からの情報m(..)m.

(2001.06.01.記)(2002.06.25.更新)

篠田節子

『ハルモニア』

篠田節子:『ハルモニア』,マガジンハウス,1998.01.01., ISBN4-8387-0838-6, \1800+税.

書評

ハルモニアといえば,皆さん第一に思い出すのはあの人ですね(笑)

著者は『女たちのジハード』などの小説で有名な作家.この小説は「鳩よ!」誌に96年〜97年にかけて連載されたもので,単行本化にあたって大幅加筆修正したという.

で,タイトルだが,あの人とどこまで関係があるのかは不明.やっぱり無関係か.しかし,色白で小柄でやせぎすで見た目より歳がい(ピー)る女性が,音楽の天才として登場する.

面白いかどうかといえば,面白い小説だと思う.ストーリーとしてはむしろ陳腐なものだと思うが,文章力があり,音楽の造詣が深く,また,人物が魅力的なのでなかなか読ませる.

しかし,脳に障害を持つ者が特異な集中力の結果として楽器の演奏に秀でることがあるということは物語のリアリティとして了解可能だとしても,他人の頭のなかにイメージを送ったり,腕時計の液晶を白黒させたり,植木鉢を念力で跳ばしたり,カーテンに火をつけたりという超能力を発揮することについては,同列のリアリティを感じることはできない.もう少し地味な小説になっても,この手の作りものは避けるべきではなかったかと思う.

なお,1998年7月より,堂本光一と中谷美紀主演でTVドラマ化された.日テレ系列,土曜日21:00〜の時間帯.

関連サイト

http://www.cmpk.or.jp/catfnd/neko/books/harmonia.html
猫本舗氏による書評.ちょっと批判的.
JANUARY
望月商弘氏による書評.
ハルモニア
神谷町NIGHTの横川氏による書評.
Book Review: ハルモニア
竹中英紀氏の書評.「由希の超能力それ自体よりも、東野が<略> 社会や日常から逸脱していくプロセスの描写のほうが、社会人には リアルで怖い」と鋭い指摘.

(1999.03.07.更新)

篠原哲・林晃史

『虫の味』

篠原哲・林晃史著,八坂書房,1996.10.25.,ISBN4-89694-689-8

書評

タイトルは比喩ではなく,ホントに虫を食べる話.面白い.昆虫学者が出す料理は気をつけて食べましょうという教訓が得られる.

 からりと揚がった蛹を四、五匹ずつ小皿に盛ると、何とももみごとな酒のつまみ。照り具合、色調、香気、いずれも満足すべきものだが、なんといっても、「初物」のこと、恐る恐る口の中に入れる、味はまさに絶品であった。

 たちまち一〇匹も食べて中休みをしていると、岐阜育ちの酒友が入って来て、これは珍品と残りを全部たいらげてしまった。食べてしまった後で、この「ハチの子」非常にうまかった、どこで手に入れたのかと、まだ欲しそうな顔をする。いやー、これは、アメリカシロヒトリという害虫の蛹だとは言い出せなかった。

(P.192-194)

以下は海外にある同様な趣向のサイト.

Insect Recipes

(1999.02.11.更新)

志水一夫

『UFOの嘘』

志水一夫著,データハウス,1990.12.11., ISBN4-924442-97-6

書評

UFOについて語るならぜひ目を通しておきたい本.続編の『宇宙人の嘘』に期待(笑).

逸見政孝氏が木星をUFOと間違えて大さわぎしていた番組は,私も大学の研究室で観ていて,むちゃくちゃ腹が立ったことを覚えている.

大予言の嘘

志水一夫著,データハウス,1991.12.21., ISBN4-88718-112-4

書評

五島勉の大予言シリーズや,諸々の予言,占いについて述べた本.『UFOの嘘』の続きもあり.それにしても,再来年はもう1999年である(1997年記).

追記

1997年冬に新装版が発売された.この機会にぜひお読みいただきたい.

『宜保愛子イジメを斬る!!』

志水一夫著,スタジオシップ,1994.02.26., ISBN4-88315-282-0

書評

大槻義彦教授のあまりにトホホなオカルト批判を戒めた本.後日『噂の真相』誌94年4月号にこれまたトホホな,というか脅迫紛いの抗議文が載った.

(2001.01.28.更新)



Written by Spangle Maker.