日産スカイライン


R32(1989年5月〜1993年8月18日)

1989年5月にデビューしたR32スカイラインは,「とんでもないが,とんでもいい」という大馬鹿なコピーとは裏腹に,510やGC10と並ぶ日産の名車の一つだ.もちろん出来上がった車のデザインが美しく,性能もかなり高かった.しかしなにより,車のコンセプトが明解で存在感が高かった.

グランプリ出版から『スカイラインGTRレース仕様車の技術開発』という本が出ている.これによると,とにもかくにも,R32開発の重要課題の一つは,レースで勝つことだった.そんなのは日本に車多しとはいえ,これぐらいなものだろう.

加えて,「ソフトマシーン」「都市工学」などの珍妙なコピーとともにいわゆるハイソカーとして売りに出したR31の教訓が,徹底的に反映されていた.ホイールベースはそのままに全長,全高を小さくし,ピラーレス・ハードトップもやめて数十kg軽量化した.直線基調で平面絞りがほとんどなくオーバーハングが鈍重に見えたデザインは,丸みを帯びたものに一新された.そして足周りも,旧態然としたストラット・セミトレからいわゆる901活動の成果をダイレクトに取込んだ前後マルチリンクに変更された.ここから伺えるのは,「スカイラインとは,2000cc直6に対し小さめの車体を持った,長距離ドライブやレースに強いセダンである」という明快なコンセプトである.このコンセプトの求心力あっての,R32のスタイルであり,走りであった.

結果としては寸法の割にかなり狭い車になった(笑).室内は長さはそこそこだが,屋根が低く,居住性は当時のB12サニーと大差がない.トランクはむしろ狭いぐらい.しかし低い着座姿勢と凝ったインパネで,運転席だけは妙に居心地がよく,ソノ気にさせる作りをしていた.直列6気筒のエンジンがまずあって,これと4人の人間を,(長距離ドライブでも文句が出ない)最小限の空間にレイアウトしたものといっていいだろう.

外装のデザインは傑作である.R31では,スカイラインらしさを表現するのに,R30のデザインを継承するぐらいのことしかできなかった.しかし,R32では,スカイラインのアイデンティティを,直6搭載のロングノーズ,小さいキャビン,ヘッドライトは切れ長の涼しい目許,一風変わったリアのフェンダーフレア,そして丸目のテール.この辺の項目を押さえれば,具体的な形は先代を踏襲しなくてもOKと割り切った.そしてこれらを配して後,無駄のない流麗な曲面で車体を覆った.リアフェンダーのサーフィンラインは,それとのペアとして,フロントのホイールアーチから後ろに流れるキャラクターラインを考え出し,これによりきわめて個性的なフェンダーフレアをもった車に仕上がった.これでもう十分で,丸型のテールランプはもはや,デザインというより画家の朱印である.とにもかくにも,徳大寺有恒氏が「何にも似ていない」と評したのは,実にこの車のデザインをよく表していると思う.何にもにていない.しかしこれはスカイラインである.

これだけでもう十分なところに持ってきて,GT-Rが16年ぶりに復活し,おまけにこれがまたレースで連戦連勝だったため,R32の人気はもはや伝説的なものとなった.たった4年でフルチェンジしてしまったのがまことに惜しまれる車である.

(1998.09.27.記)(2002.11.01.更新)



Written by Spangle Maker.