NHK特集「奇跡の詩人」に関して. 番組を見た限りではドーマン法 というのは脳障害児のリハビリのことだと思っていたんだが,4/30になって 乳幼児の早期教育法としても有名だというのを知った. 七田式もドーマン法から派生したものだ という(ドッツカードはドーマン博士の考案と七田氏も述べている. 右脳を発達させると超能力がってのは七田先生の考えだろうけど).
ちょうど子供が幼稚園に行きはじめたので,ドーマン法についてはよく 知っておく必要があるはずだ.むしろ今まで不勉強だったのが恥ずかしい. ちょっと検索してみるとドーマン法を支持するページがそこかしこに見つかる. そのどれもがある種の雰囲気を持っていることが第一印象だが,雰囲気が怪 しいってだけでは批判にならないので,もっとちゃんとした批判をできるよう になりたい.ネットでオリジナルの反論を展開できないまでも,もし薦められ た場合にうまく断れるようになる必要がある.
ネットで検索してみるとドーマン法に関する批判ページは なかなかみつからない.4/30にも紹介したが, http://www.aiiku.or.jp/rpi/nakamura/koso/case2.htmで批判されて いることが紹介されているぐらいだ.
批判がないぐらいだからいい方法かというとそういうことはなく, 日本ではそういうのがないだけのこと.米国の懐疑団体の機関誌にいくつか 批判した記事が出ている.例えば,以下のサイトをさる所で教えていただいた.
同じ記事はこちらにもある.
Psychomotor Patterning from CT Skeptic Vol1 issure4
教えていただいた際に引用されていた箇所がこれ.末尾の結論部分.
The Doman-Delacato patterning technique is pseudoscience because it is premised on a bankrupt and discarded theory and, more importantly, has failed to demonstrate any significant effectiveness under controlled conditions, and yet it is being purveyed as an innovative and effective treatment, and even possibly a cure.
拙訳すると
Doman-Delacato patterning techniqueは擬似科学である.なぜなら,破綻し, 捨て去られた理論を前提としている.また,より重要なのは,統制された状況下で はいかなる有意な効果も証明することに失敗していることである.しかしながら, 恐らく治療法として,それは革新的で効果的な方法であるということで提供され 続けている.
なんと,<破綻し,捨て去られた理論を前提とする擬似科学>と断言されている. 他に'snake-oil salesman, dressed up in the modern clothes of alternative medicine'なんて表現もある.「代替医療という現代的な衣をまとった, ガマの油売り」というような意味でけんもほろろだ.
それはそうと,記事では'Psychomotor Patterning',「精神運動性パタニング」 なる,障害者のリハビリとしてのドーマン法を批判しているようだ. ドッツカードなどの早期教育についてどうかというのはまた調べてゆきたい.
一番気になるのは,ドーマン法が障害者のリハビリと早期教育の両方を フォローしていること.病院と学校は別の施設でしょ.普通.色々考えて思い ついた理由は,ドーマン先生にとっては,障害者も子供も,不完全な人間という ことで共通だという推定.だからドーマン法というのは,不完全な人間を完全な 人間に近づけるプログラムということでひとまとめにできそうだ. 障害者であっても完全な人間であるという考えは希薄なように思う. また,かなり古典的な自然観がベースにあるように思う.
パタニング,またはパターニングと呼ばれるドーマン法のリハビリの 理論的な基盤は簡単だ.
Steven Novella氏の批判記事を読んでから,少々調べても,これ以外の 理論は特にないように思う.なので,理論的に破綻しているという 指摘はまったく正しい.
「個体発生は系統発生を繰り返す」というのは既に否定されている古臭い 理論であり,今時こんなものを基礎に置いた理論はトンデモ扱いされて当然だ. 個体発生は系統発生に似ているように見えるけど,繰り返しているわけではない, というのが常識.このことは AV機器の批評記事でさえ紹介されているし, 進化論と創造論についてのツリー式掲示板での伊藤@PSU氏の投稿などでも よくわかる.確かに個体発生と系統発生の類似点は興味深いことではあり, 実は現在もこれに関する研究は行われているのだが,例えば 進化論 と創造論についての掲示板ログ43でのはっとべっと氏の投稿や HIKOSAKA Akira氏の書評などから分かるように,今やドーマン法の解釈とは かなり違う世界に進んでしまっている.
ドーマン法がそのとっくに捨て去られた理論を重要な基盤にしていること, ついでにドーマン法がオカルトと相性がいいということは, 「運勢改善 アイテムの使い方と運命」というページを読むとよく分かる.運勢改善て, 『天空のエスカフローネ』みたい.運命改変! 運命改変!
ドーマン法を調べてみて,正直ゾッとした.ドーマン先生にとっては, 脳障害をもった人というのは,単細胞生物から人間までの進化のはしごを 登ってくる途中で,進化を止めてしまった人ということらしいのだ. 歩けない人は動物と同じ,腹這いしかできない人は爬虫類と同じ. 腹這いもできない人は魚類以前.だから,這って歩くこともできない 障害者は,ワニが這うような動きをさせる.まず爬虫類になってもらう わけだ.進化のはしごという概念が時代遅れだし,障害者だって最初から 人間だよ!
また,立派な人間になるには,途中の過程を正しく歩んでくる必要がある という理屈もあるらしい.だから赤ん坊のハイハイはしっかりさせよと言う. 赤ん坊は獣か哺乳類型爬虫類と一緒なんだな.そりゃ猫の可愛さは赤ん坊に 通じるとは言われるけどねぇ.
ハイハイが大事だというのは否定しない.ただし,脳の発達がどうこうで はなく,上半身の身体的な発達のため.かくいう自分は,ハイハイをほとんど しないで,ごろごろ転がって移動し,続いて歩行器で移動し,立って歩く ようになってしまったらしい.私の貧相な上半身は由なきことではないのだなぁ. ただ,うちの家系は肩幅が狭く,ハイハイしないから肩の発達が不完全だった のか,遺伝的に肩の発達が不完全だからハイハイしなかったのか,実は どっちなのか判然としない.いずれにせよ,とりあえずこういうページを 作るぐらいの脳の発達はあった.ドーマン法の素晴らしさは全然分から ないけど.
そういえば赤ん坊のうつぶせ寝が流行っているが,これもドーマン法と 関係があるとか.頭の形をよくしたいぐらいのことでうつぶせ寝なんか させるわけないと思ったら,やっぱりもっと強い信念体系があったとようやく 分かった.進化のはしごを登ってる途中の赤ん坊は,人様と同じ仰向け寝は おこがましいってことか.まずは動物みたいにうつぶせ寝をマスターしろって ことで.で実はこのうつぶせ寝, 乳幼児突然死症候群の発生率が高いことで知られている.ドーマン法に 肯定的な人も,うつぶせは起きている間だけにして,うつぶせ寝はさせないように と言っているようだ.ひとまず うつぶせ寝を考える会というサイトを紹介したい.
障害者に健丈者の動作をさせると健丈者に近づくというのは, 個体発生どうこう以前の,もっと素朴な信念だろう.動物の睾丸を食べる と精力がつくとかいう話と同様の.
脳の発達に体を動かして神経から刺激を与えることが重要だ, という説はにわかに否定しない.子供は体を動かして思いっきり遊んだり, 図画や工作や字の練習などで指先を使ったりすべきだし,赤ん坊は母親と 触れ合う感触がすごく大事だと思う.
しかし,障害者の損傷してしまった脳の働きが,体を動かすことで 修復できるかどうかというと,疑問を感じる.理論的に納得できないという ことはK学習相談室の Adachi氏も述べている.Adachi氏はパタニングの経験的な効果について も疑問があると述べている.理論的におかしく,経験的にも効果が実証されて いないということは,Steven Novella氏が言うだけではないと分かる (ただしAdachi氏はパタニングに対しては否定も肯定もできないという立場).
Adachi氏のページに,パタニングの評価できる点として「子どもがいやがら ない(むしろ快適でしょう)」というのが挙げられている.Adachi氏はそのように 実践してきたのだろうと思う.しかしNHK特集では違った.流奈君はかなり 痛がっており,母親はその痛みを癒すために歌い続けていた(その歌がどうだ というのはひとまず置こう).
NHKは「奇跡の詩人」の反響に対し以下のページにコメントを発表している.
http://www.nhk.or.jp/special/schedule/top2-0205xx.html
これ自体にも反論したいことはあるというのはひとまず置こう. NHKはドーマン法についても肯定的な立場を変えないらしい.しかし, 理論的に破綻していて,経験的に効果が証明されていない療法で, 流奈君が痛がっている姿に対してそれでいいんだろうか? 治療という よりかなり虐待に近いのではないかという印象をもった.もちろん, 悪意があってパタニングをやっている人は一人もいない,逆にだれしも 善意なのだろうということは理解しているつもりだが.
ドッツカードなど早期教育の方の由来や理論,効果やそれに対する 反論はまた見つからなかったので,調査を続行してゆく.
Steven Novella氏による 'Psychomotor Patterning'という記事をなんとか翻訳しました. 誤訳等何かお気付きの点がありましたらご指摘願います.
Psychomotor Patterning from The CT Skeptic vol1 issue4 (Japanese Translation)
1996年にNBCの番組でドーマン法を紹介したキャスターの Kathy Lee Gifford氏って,『 サウスパーク』でギャリソン先生に教科書倉庫!から狙撃されそうに なったあの人ですね.アメリカはアメリカでやはり大物メディアが取り上げ たわけだ.すかさずこんな批判記事が出るところがかの地の奥深さ.
日本でも,今回は個人レベルでさっそくこういう優れたページができている. 他にも「奇跡の詩人」関連のページはいくつかできているようで, 下記ページからもリンクされている.
下記ページから上記拙訳をリンクしてもらいました.ありがとうございます.
Facilitated Communication (FC) と Doman Method 海外文献翻訳資料集
"Psychomotor Patterning from The CT Skeptic vol1 issue4"の 日本語訳に関しまして, iさんから沢山のご助言をいただき,訳を修正しました. どうもありがとうございます.
(2002.05.02.記)(2002.07.20.更新)