| 電子交差点 |
パリ便り 江中直紀 ウィルス通信読みました。I Love You についてはここのメディアでも連日とりあげています。インターネットの脆弱性とともに、マイクロソフトによる寡占の危険、をうんぬんする論調が多いようです。 パリにきて1月半、生活はみかけはとっくにおちついているのですが、滞在許可証がまだとれていません。おそらくはフランス政府の移民政策の変動によって、今年から必要書類が激増し、大家の納税証明のコピーなんてものまで要求されました。案のじょうというか、大家が家賃収入を申告していなかったので、賃貸契約書のコピーのかわりに、息子の留学中「知人」わたしにただで貸している、という嘘の証明まで書いてもらうしまつです。 この国に住みくらすのは20年ぶりくらいになるのですが、地下鉄のドアがあけやすくなったこと(一部路線では自動ドアの車輌)、サラダがレタス一点ばりではなくなったこと、をのぞいて変化はありません。というのはいいすぎで、こまかい変化はそこかしこにみられるものの、基本的にはやはりまったくかわっていません。 サッカーのフランス・カップでカレーのアマチュア・チーム(もっとも選手の大半はプロになりそこねたプレイヤーたち)が決勝まで勝ちあがり、たいへんな話題になりました。決勝ではナントに2−1で負けたのですが、TVが選手たちの日常(植木屋、ペンキ屋、少年院の看守補助、などなど)を追いかけるし、ル・モンドも特集のかたちでプロフィールを紹介していました。そのほとんどが最低賃金、10万円ちょっとの月収(ラブからプラス3000F)しかないのです。この最低賃金ではここのアパルトマンの家賃にもたりません。いっぽうである種の資格、能力があれば、30歳前後で月収4、500万円にかんたんになります。 この構造がかわらないかぎり、フランスは本質的にはかわらないのでしょう。基本的食材がゆたかで安いかわり、嗜好品、美しいものは高価、安いか高いかで、中間がほとんどありません。最低賃金でいくらでもひとを雇えるから、手仕事がいまだに生きていますし、パリ市の失業対策もあって、毎日のゴミ収集、朝夕の街路清掃なども徹底しているのです。 わたしのアパルトマンはいわゆる「高級住宅街」にあり、歩いて5分以内のところに中央省庁がすくなくとも6つ、首相官邸もすぐそこです。中庭ではいま藤にかわって薔薇の花ざかり、そのむこうにとなりの小教会の薔薇窓がみえます。先日階段のところに、首相、国会議長をながくつとめたジャック・シャバン=デルマス宛の手紙がはさんであって、これにはたまげました。たしかにここの番地で、かつて住んでいたことがあるのでしょうか。ただしここの家賃は7000F、相場からいってひどく安いから借りたのです(今年いっしょにきたひとたちの家にくらべれば半額強)。 1年いるあいだになんらかのストライキにはぶつかるだろうと思っていましたが、現金輸送車運転手組合のストライキが今日で10日めにはいりました。おとといあたりから銀行のATMがどこも麻痺状態で、みんな銀行から銀行へとうろうろ、たまさか機能している機械があればながい行列です。TVでニュースをきいたとたんこれはと思ったので、すぐさま現金をかなりひきだしておきましたが、長期化すると困りそうです。それでも世論はストライキに寛容なようで、というのも運転手たちのひどい労働条件、ほぼ最低賃金、危険(ここ1年で何人も強盗に殺さた)という実態が報道されているからでしょう。 なんて野蛮な国にきてしまったの、とわたしの相棒はいってなげいています。またおたよりします。 2000年 5月16日 江中直紀 5月5日、ナンテールで襲われた現金輸送車の乗員のうち、ひとりが昨日死にました。ひとりがいまだ重態です。なにしろ機関銃と爆発物による襲撃だというのですから。これでストライキがいっそうながびくことになりそうです。 この1年で死者は4人、5年間で70回あまりの襲撃があったとのこと。街なかにいるかぎり、ガイドブックが注意を喚起している夜のメトロもふくめて、治安がわるいとはまったく感じられないのですけれども。 またおたよりします。 2000年 5月17日 江中直紀 |