水の島からの声 宮内勝典 星川淳は、長い旅の果てに日本にもどり、もう二十年も屋久島に住みついている。地域に深く根をおろしながら、かれの精神は動きつづけている。黒潮の真っただ中の花崗岩の島、縄文杉のそびえる島とともに鼓動している。そこは「世界遺産」の島であり、宇宙に浮かびつつ息づいている「ガイア」の一点なのだ。だから屋久島を見ることが、そのまま地球への思索になる。そうした二十年間に渡る営みが、いま『屋久島水讃歌』として結晶した。 ぼくは眠る前に、かならずこの本をひらいて十数ページだけ読む。屋久島の空へ柱のようにたち昇っていく鳥のこと、縄文杉の根方から流れくだる川のこと、アメリカ先住民のこと、ハワイからタヒチまで星だけを手がかりにカヌーで航海した青年のこと。 こんなに楽しい読書はめったにない。そうして眠りに落ちていくとき、海鳴りや深い森のひびきが聴こえてくる。、ささくれた神経の森に、金色の木洩れ日が射し込んで、ちらちらと揺れ、ぼくを幸福な眠りに誘ってくれる。 だが、これは安易な癒し系の本ではない。 星川淳は闘っている。屋久島の隣の無人島に、核廃棄物の貯蔵施設をつくろうという計画がひそかに進行しつつあった。ブローカーや権力の暗躍が始まっていた。かれは先手を打って、屋久島の人たちとともに屋久町議会に働きかけて「放射性物質」拒否条例をつくりだした。日本では初めての条例だ。かれの呼びかけは種子島やトカラ列島にまでひろがり、いま南の島々や海が<聖域>となりつつある。 原子の火を消そうと、かれは言う。 ぼくは、畏友の声に耳を澄ます。 「週刊朝日」2000年3月2日号 |